唇の魔法[2]
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ソファの端に寄り、外方を向く。
そんな私の二の腕を、千景が掴んで引き寄せた。
でも私はそれに抵抗し、頑なに千景の方を見ないよう顔を背ける。

「ナマエ」

呆れたような低音が耳元に落ちてきたが、それでも聞こえない振りをした。
今さら何を言ったところで、千景の決定が覆らないことは分かっている。
でもだからって、仕方ないよねって言えるほど聞き分けの良い振りは出来そうにない。

そんな私に焦れたのか、千景が先程よりも強い力で私の肩を引いた。
男の人の力に敵うはずもなく、私は無理矢理千景の方を向かされる。
そこにいたのは、私の予想に反して、少し困ったような顔をした千景だった。
もっと不機嫌そうな顔をしているかと思っていたから、私は驚いて千景の顔を見つめた。

「聞き分けてくれ、ナマエ」

一言、私にそう告げて。
千景の端整な顔が近づいてくる。
唇と唇が触れそうになって、私は慌てて後ろに仰け反った。

「やだ!そうやって、キスすれば何でも許すと思ったら大間違いなんだから!」

私は怒っているのだ。
そんな簡単に絆されてなんてあげない。
いつもいつもキス一つでその場を収めようなんて、虫が良すぎるのだ。

そう、突っ撥ねたはずなのに。

「許せ、ナマエ」

耳元に囁かれた、わざと低められた甘美な音。
何もされていないのに身体の芯が震えるような、そんな声で。
命令系なのにも関わらず、まるで縋るような言い方をするから。

「…次は、ないんだからね」

呆気なく、私の壁は崩壊した。
その途端に奪われた、唇。
優しく食むように、やがて深く角度を変えて、舌を絡めて。
口内を一通り蹂躙してから、千景は満足そうに唇を離した。

「千景は、ずるい…」

思わずそう呟けば、千景は少し目尻を下げて。

「お前に対してだけだ、諦めるんだな」

そう、言った。

こうやって、私はいつも彼の勝手で横暴な態度を許してしまう。
でも、実はそれが満更でもない私がいるから、始末に負えなかったりする。



そしてその翌日。

予定が潰れて、一日中家に引きこもっていた私の元に。
千景がケーキを買って帰って来てくれたのは、また別のお話。



唇の魔法
- 狡い言葉と甘いキス -



あとがき


あき様へ

この度は、キリ番リクエストをありがとうございました。
ちー様の激甘とのことでこんな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか。"激"の部分がちょっと足りなかったかと反省しているのですが…。
幕末と現パロどちらが良いか悩みましたが、結局以前あき様が仰っていた"ご機嫌とりのキス"ネタを使わせて頂きました。
もしお気に召さないようでしたら書き直しますので、遠慮なくお申し付け下さい。

いつもお世話になっているあき様に、心を込めて捧げます。



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