その眼に映る全てになりたいと
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ナイトランプに照らされた、あどけない寝顔を見つめていた。


俺より少し年上の彼女は、いつも隙がない。
その美貌と相まって、凛とした雰囲気を崩さない。
そんなところに惹かれたし、そんな姿を好きだと思う。

だが、それよりも。

情事のあと、まるで意識を飛ばすかのように深い眠りに落ちた彼女。
意思の強そうな瞳は長い睫毛に覆い隠され、どこかあどけなさを感じさせる。
寝ている時の彼女はいつも、年上の女性には見えなかった。

俺の右腕を枕に安心しきった表情で眠る彼女に、愛おしさが募る。
誘惑に負けた気分でその唇に人差し指を押し当てれば、ん、と小さな声が漏れた。
思わず頬が緩む。

いつもは綺麗、と表現するに相応しい彼女が、俺の腕の中でだけ可愛らしくなる。
そのことに、言いようのない優越感を感じている。
彼女のこんな無防備な姿を見ることが出来るのは己だけだと思うと、それだけで幸せな気分になれる。

どんな夢を見ているのか、彼女が不意に相好を崩した。
ふにゃり、と柔らかな笑顔になる。
どきりとした。
夢の中で、何があったのだろうか。
そこに、俺はいるだろうか。

そんなことを、考えていると。
彼女の唇が、薄く開いて。

「ん…、ひ、じかたさ…」


頭の天辺から、冷水を浴びせられた気がした。

なんだと。
いま彼女は、誰の名を呼んだ。
聞き間違いではなければ彼女は、土方さん、と。
そう呼びはしなかったか。

俺の腕の中で、他の男の名を呼ぶというのか。

先程までの温かな気持ちは消え去り、胸の内を巣食うは嫉妬と不安と憤り。
例え夢の中であろうと、彼女がこんな風に幸せそうな顔で他の男の名を呼ぶのは許せなかった。

下敷きになった右腕はそのままに彼女の上に覆い被さり、左手を顔の横につく。
そのまま、彼女の薄っすらと開いた唇に口付けた。
彼女が眠っていることなどお構いなしに、舌を差し入れて深く絡める。

しばらくすると息苦しさに意識が戻ったのか、彼女が緩慢に身を捩った。

「…は、じめ…?」

薄っすらと開いた瞼の奥から、ぼんやりとした寝ぼけ眼が現れる。
その瞳に映った俺は、さぞかし不機嫌な顔をしていたことだろう。

「俺以外の男の夢など見るな」

そう言って、再び彼女の唇を塞いだ。
彼女が寝起き直後のせいで大した抵抗も出来ないのをいいことに、その口内を思うがままに蹂躙する。

よくよく考えてみれば、土台無理な話だ。
夢の内容など、自ら選べるものではない。
だがこの時は、ただ面白くなかったのだ。
俺と抱き合い、俺の腕の中で眠った彼女が、他の男の名を呼ぶなど。
下らない独占欲だと分かってはいても、面白くなかったのだ。

「あんたは、俺だけを、見ていればいい…っ」

その目に、他の男を映さないでほしい。
その唇に、他の男の名を乗せないでほしい。
その身体に、他の男の手を触れさせないでほしい。

狭量な男だと思われても一向に構わぬ。
ただ、俺だけを見て、感じて欲しかった。

だから。

「は、じめ、しか…、見てない、よ…っ」

口付けの合間、息も絶え絶えになった彼女の唇から漏れた言葉に、目頭が熱を持った気がした。


「…分かって、いる」



その眼に映る
全てになりたいと

- そう言えば、君は笑うだろうか -


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