二人の夜に溶ける[1]
bookmark


R-18

※ヒロイン×斎藤の描写があります。苦手な方は閲覧をお控えください




「はじめー、入るよー?」
「ま、待てっ、いや、」
「もう、寒いから早く入れてってば」
「すっ、すまない!は、入ってくれ」

ようやくお許しが出て、目の前にある中折れのパネルドアを開ける。
暖かい空気にほっとしながら中に足を踏み入れれば、そこにはまるで茹で蛸のように真っ赤になったはじめがいた。

「えっと、もう逆上せてる?」
「そ、そんなことは、ない」


どうしてこんな事態に陥ったのか、簡単に説明しておこうと思う。

金曜の夜ということで、今夜ははじめが私の家に泊まることになっていた。
定時で仕事を終えた帰り道。
私たちは運悪く、ゲリラ豪雨に遭ってしまった。
その時点で、私の家までは徒歩5分の距離。
雨宿りに適した場所も見つからず、仕方なしにマンションまで二人で走った。
が、家に辿り着いた頃にはやはり全身濡れ鼠になっていた。

はじめの普段は柔らかい髪は濡れてぺたんこになり、ワイシャツが身体の線に沿って張り付いていた。
私があまり濡れないように、と頭の上に被せてくれたはじめのスーツの上着はチャコールグレーだったはずなのに、いつの間にか真っ黒と言って差し支えない色に変わってしまっていた。

このままでは風邪を引くと思い、私はすぐさまバスタブにお湯を張って、はじめにお風呂に入るよう促した。
上着に守られていた私よりも、明らかにはじめの方がずぶ濡れだったからだ。
だけどはじめは、私に先に入れと言って聞かなかった。

「だって、はじめの方が濡れてるじゃない」
「ナマエ、俺のことはいいからあんたが先に入ってくれ」
「私はそんなに濡れてないから大丈夫だって」
「駄目だ。あんたに風邪を引かれては困る」
「だから、はじめの方が風邪引いちゃいそうだって」
「俺は平気だ。そもそもここはあんたの家なのだ。家主を差し置いて風呂に入るなど」
「そんなことはどうでもいいから!」
「いや、やはりあんたが先に入るべきだ」

と、まあそんな感じで、埒が明かなかった。
このまま平行線を辿っているうちに二人揃って風邪を引くと悟った私は、強硬手段を選んだ。

「分かった。だったら一緒に入ろう。それなら問題ないでしょ?」

そう言うと、はじめは突然一時停止ボタンを押されたテレビみたいに固まって何も言わなくなった。
フリーズしたその隙をついて、私は強引に話を進めた。

「ね?ほら、行こう」

はじめは明らかに大問題だ、という顔をしていたが、思考回路が上手く働かないのか、二の句が継げなくなっていた。
その間に私ははじめを脱衣所に押し込んだ。
そこにきてようやく、はじめは抵抗した。

「なっ、なにを言っているのだ。と、共に風呂に入るなど、そのような、」

しかし、もう手遅れだった。

「はじめ。自分で脱ぐのと私に脱がされるの、どっちがいい?」

耳元に唇を寄せてそう聞くと、はじめは顔を真っ赤にした。
恐らくこれで、さっきまでの肌寒さは完全に消え失せただろうと思った。

「じ、自分で、脱ぐ故、その…」

どちらにせよ一緒にお風呂に入ることには変わりない、その二択。
はじめは前者を選択し、狼狽えて視線を泳がせた。
脱ぐところを見られたくない、ということだろう。

「すぐ行くから、先に入ってて」

私はそう言い残し、はじめを置いて脱衣所を後にした。
しばらくすると、はじめがバスルームのドアを開ける音が聞こえてきた。

こうしてはじめを先にお風呂に入れる、という私の目的は達せられたのだから、別にこのままでもよかった。
わざわざ私が一緒に入る必要はない。
だが、ちょっとした悪戯心とでもいうのだろうか。
先程見た真っ赤な顔を思い出しながら、私はもう一度脱衣所に足を踏み入れた。



prev|next

[Back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -