滲んだ星を数えて[2]
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大丈夫だと言ったミョウジを、タクシーで自宅まで送り届ける。
思ったよりも酒は回っていない様子だったが、精神状態を考えると一人で帰すのは得策ではないと思った。

ミョウジの自宅マンション前で、共にタクシーを降りる。
過保護なんだから、と苦笑するミョウジと連れ立って、マンションのエントランスに向かった。
あんた限定だ、という言葉は、また音になることなく飲み込まれる。

かつん、かつん、と。
ヒールの音だけが響く夜道、不意にミョウジが呟いた。

「なんか、空っぽになっちゃった気分」

隣を見れば、ミョウジは遠い目をして暗くなった空を仰いでいた。
その目に映る星空は、滲んでいるのだろうか。
口元には、自嘲気味な笑みが浮かんでいた。

急に、何か焦燥感のようなものに苛まれた。
彼女を、繋ぎとめておかねばならぬ、と感じた。

立ち止まり、ぼんやりと歩き続けるミョウジの手首を掴む。
肩を揺らしたミョウジが、驚いたように俺を振り返った。

「斎藤君?」

俺は何も言えず、その手首を強く引いた。
ミョウジの身体が揺らぎ、自然と俺の胸に凭れかかってくる。
その華奢な身体を、黙って抱きしめた。
ミョウジは酷く驚いた様子で一度だけ抵抗したが、俺が力を緩めないと分かると大人しくなった。

背中に腕を回し、きつく抱きしめる。
その首筋に顔を埋めれば、彼女の優しい匂いがした。
戸惑っている気配がありありと伝わってきて、諦めにも似た苦笑が漏れる。
それでも、この温もりを手放したくはなかった。

空っぽになった、と泣きそうな顔をしたミョウジを、これ以上悲しませたくはなかった。

「俺では、不足か」

髪の隙間から覗く耳に、そう問いかける。

「え…?」

その意味するところを理解しかねたのだろう。
ミョウジが聞き返してくる。
俺は一度、深く息を吐き出した。

「空っぽになったと、あんたは言った。俺では、その心を埋めることは出来ぬだろうか」

腕の中で、ミョウジが大きく身じろいだ。
少し腕の力を緩めてやれば、大きく見開かれた目が俺の顔を見上げてきた。

「斎藤、くん…?」

戸惑いなのか、驚きなのか。
その瞳は、街灯の明かりを映し出して揺れている。

「俺は、あんたを好いている。ずっとあんたを見てきた…だから、考えておいてほしい」

そう言って、左手の親指でそっとミョウジの頬を撫でると、彼女は恐る恐るというように目を細めた。
その仕種に、愛おしさが募った。

「答えは、すぐでなくとも構わない。ただ、あんたの味方はここにいると、知っておいてほしい」

白い頬を包むように掌を当てる。
伝わってくる熱に、手が痺れるようだった。

「…ありがとう」

少しの沈黙の後、ミョウジはそう言って微笑んだ。
その瞬間、彼女の目には確かに俺の姿が映っていた。

今はそれだけで、十分だった。



滲んだ星を数えて
- その隣には、僕がいる -


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