響く、始まりの音[4]
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「そうだ、その顔だ」
「え?」

褒められたみたいで嬉しくなり、思わず笑みを零した。
そんな私を見て、土方部長はこう言った。

「お前はそうやって、笑ってた方がいい」

そして、優しげに目元を崩した。
初めて見るような、柔らかい表情だった。

心臓が、とくんと高鳴った。

「お前、もう帰れるか?」

そんな私を置き去りに、土方部長が椅子から立ち上がる。
自分のデスクに向かう土方部長の背中に、私は頷いた。

「あっ、はい。もう終わりましたので」

そう答えると、今度は信じられない一言が返ってきた。

「じゃあ、メシ、行かねえか」
「…えっ?」
「こんな時間だ。腹減ってんだろ、奢ってやる」
「え、え…え?!」
「なんだ、俺とじゃ行きたくねえってか?」
「めっ、滅相もないです!でも、あの、えっ?」

何だ、この展開は。
どうして土方部長が、私なんかを夕食に誘ってくれるのだ。
この状況じゃ、どう考えても部署の飲み会なんかじゃない。
二人きり、だ。

完全にテンパった私を見て、土方部長は不意にくつくつと喉を鳴らした。
そして、手早くデスクの上を片付け鞄を持った土方部長は、もう一度私の方に歩いて来て。
惚けて座り込んだままの私の手首を掴み、ぐい、と強引に引いた。
突然のことにバランスを崩した私は、立ち上がりざまによろけ、土方部長の胸にダイブしてしまう。

「す、すみませっ、」

しかし、謝罪の言葉はそれ以上続かなかった。
私の手首を離した右手が、今度は私の背に回り、きつく抱き寄せられたから。
あまりの近さに、私はぎゅっと目を瞑る。
煙草と、微かな香水と。
土方部長の匂いがした。

「口説いてんだよ、気付け馬鹿野郎」

そして、耳元に落とされた、ぶっきら棒なのにどこか甘やかな低音に。
今度こそ私の思考はフリーズした。


「逃がさねえぞ、ナマエ」




響く、始まりの音
- それは、少しだけ速い貴方の鼓動 -


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