降り注ぐ熱を[4]やがて、最後にリップノイズを残して彼女の唇が離れていく。
唇の端から、飲み込みきれなかった唾液が垂れる感覚があり、手をあげて拭おうとした矢先。
もう一度顔を寄せた彼女が、舌で俺の顎から唇までを舐め上げた。
「っ、」
その仕草があまりに扇情的で、思わず顔を逸らす。
そんな俺の反応に、彼女はくすくすと笑った。
彼女は俺を一体どうしようというのだろう。
ここまで溺れさせて、どうするつもりなのだ。
俺は最早、誤魔化しようもないほど彼女に惹かれてしまっているというのに。
これ以上夢中にさせられれば、どうすればよいのだろうか。
「ねえ、」
可笑しそうに笑っていた彼女が、不意に再び俺の方に顔を寄せた。
耳元に、彼女の吐息がかかる。
それだけで、俺の口からは熱っぽい音が漏れた。
目の前に晒された彼女の白い首筋に、唇を寄せてみたかった。
噛み付いて、吸い上げて、俺の印を刻み付けたかった。
もちろんそのようなことは許されぬと、分かってはいても。
そんなことを考えていた俺の思考を止めたのは、耳元に囁かれた彼女の一言だった。
「ご馳走さま」
直後、首筋に触れた柔らかな熱。
彼女が俺の首に口づけたのだと気付いた途端、腰が跳ねた。
声すら出せない、一瞬の出来事。
次の瞬間には、彼女は俺の膝の上から降りていた。
呆然と、その姿を見上げる。
面白そうに細められた目を、首に触れていた唇を、視線で追いかける。
漏れる吐息が熱かった。
「また、ね。斎藤君」
彼女はそう言い残し、俺に背を向けると会議室を出て行った。
残された俺は、大きな吐息を吐き出しながらテーブルに突っ伏した。
どう考えても、すぐにオフィスに戻れる状態ではなかった。
「どうしてくれるのだ…っ」
その後、暴走した熱を抑え込むのにどれほどの時間を要したのか。
それは、俺だけが知る俺だけの必死な戦いだった。
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