降り注ぐ熱を[2]「金曜日の夜、」
もしかしたら今が、これまで生きてきた人生の中で一番恥ずかしいことを言っているのではないか。
そんな気がしていた。
「俺はあんたと、その…もっと一緒に、いたかったのだ」
だが、真っ直ぐに見つめてくる視線に、嘘をつくわけにはいかなかった。
自分に非礼があったのかと、正面からぶつかってきた彼女の誠実さを、裏切るわけにはいかなかった。
何よりも俺自身が、彼女に嘘をつきたくなかった。
「だが帰り際、あんたがあまりにもあっさりとした態度だった故、その…そう思っていたのは俺だけか、と思うと」
どうにも照れ臭くなって、彼女から目を逸らす。
彼女の背後に見えるホワイトボードのマグネットを凝視しながら、何とか言葉を続けた。
「どうにも、その、情けなかったというか。…さ、寂しかった、のだ」
頬が、熱かった。
何もここまで馬鹿正直に暴露する必要はなかったかもしれないと、言ってから気付いた。
だが、時すでに遅し。
一拍の沈黙をおいて、彼女が噴き出した。
無理もないと思う。
「わ、笑うなっ」
大の大人が、しかも男が、寂しかったなどと真面目に語ったのだ。
誰だって笑うだろう。
しかし自分で話しておいて何だが、聞かれた相手がよりによって彼女かと思うと、一層居た堪れなかった。
必死で顔を背けるも、熱を持った頬を隠す術はなかった。
口元に手を当てて、彼女が可笑しそうに笑う。
その無邪気な姿に、俺はつい恥ずかしさを忘れて彼女を見つめた。
妖艶な笑みでもなく、取り澄ました微笑でもなく。
心のままに笑う彼女は、やはり可愛らしかった。
その笑顔に、絆された。
そんな風に笑ってくれるのならば、この際その理由が俺の情けない話でも構わないかと思えた。
「…わ、笑いすぎだぞ」
しかし、ものには限度というものがある。
流石にいつまでも笑われては、羞恥で消え入りそうだ。
「ふふ、ごめんなさい」
ようやく笑いを抑えた彼女が、俺を見て擽ったそうに微笑んだ。
そうすると今度は可愛らしいというよりも、綺麗と形容したくなる顔になった。
その差が、俺の心を刺激した。
「よかった。嫌われたのかと思っちゃった」
「そ、そんなはずがなかろう!」
とんでもなく見当違いな台詞を思わず必死で否定すれば、彼女はありがとうと笑った。
勘違いしたくなるほど、嬉しそうな表情だった。
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