滲んだ星を数えて[1]その、澄んだ双眸に。
俺の姿だけが映ればいいのに、と。
そんなことを考えていた。
だが実際に、その目が追うのは俺なんかではなく。
ふとした瞬間に、さりげない仕種で。
彼女はあの方の姿を追いかけていた。
もう、ずっと。
「あーあ、雪村さんかあ」
出会いは3年前、入社式でのことだった。
同じ部署、向かい合わせのデスク。
人懐っこい性格のミョウジは、俺の無愛想さなど物ともせずに話し掛けてきて、気が付けばその爛漫な雰囲気に心地良さを感じるようになっていた。
同期の総司も含め、よく3人で飲みに行った。
ミョウジに惹かれるのに、時間は掛からなかった。
「可愛いもんね、お似合いだよねえ」
だが、そうしていつもミョウジを見てきた俺は、彼女の視線が誰を求めているのか気が付かないわけにはいかなかった。
土方部長が、雪村と交際している。
今日は朝から、部署はこの話題で持ちきりだった。
「美男美女っていうの?」
土方部長は俺やミョウジの直属の上司で、雪村はこの春に入社してきた新人だ。
確かに双方、整った顔立ちをしているとは思うが。
衝撃の知らせに打ちのめされたミョウジの口から出てくる、私なんかより、という台詞に苛立った。
そんなことはない。
あんたは十分に綺麗だ。
そう言えない口下手な己が酷くもどかしい。
「告白する前から失恋しちゃったよ」
ずっと、土方部長を見てきたミョウジ。
そんな彼女をずっと見てきた俺だから分かる、傷ついた姿。
まさか放っておけるはずもなく、終業後飲みに誘った。
力なく頷いたミョウジは、行きつけのバーに着くなり片っ端から強い酒を呷っている。
幸いにも明日は土曜日だ。
今日は好きなだけ飲ませてやろう。
それに、俺も飲みたい気分だった。
好いている女が、他の男を想ってここまで落ち込んでいる。
その姿は俺にとって、様々な意味で耐え難いものがあった。
「付き合ってくれてありがとうね、斎藤君」
不意に、ミョウジが俺の方に顔を向け。
苦笑いと共にそう言った。
「…礼には及ばぬ」
その、泣き出しそうな顔に、理性が揺らぐ。
腕を伸ばして、抱き寄せてしまいたくなる。
俺がいると、その耳に囁きかけたくなる。
だが、こんなに側にいるのに、ミョウジの心の中を占めているのは俺ではなく土方部長だ。
それがもどかしく、苦しく、そして切なかった。
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