誤解と誤想の協奏曲[7]
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お酒を飲んでも全く顔色の変わらなかった斎藤さんが、突然耳まで真っ赤に染めて視線を逸らした。

「え、あの…斎藤さん?」
「わ、忘れてくれ!」
「はい?え、あの、」
「いいから、俺の言ったことは全て忘れてくれ」

斎藤さんはそう言って、真っ赤になった顔を左手で覆った。
斎藤さんが、言ったこと。
私が土方さんのことを好きなのだ、と思っていて。
そして、そして何と言った?

「あの、あれは、どういう意味、ですか」

まるで斎藤さんにつられるように、私の顔にも熱が集まっていくのが分かる。
これは、アルコールのせいではない。

「斎藤、さん…」

呼ぶ声が、緊張に震えた。
はっと、斎藤さんが顔を上げて私を見る。
目のふちを赤く染めた斎藤さんは、一度深く息を吸い込んでから、そっと左手を伸ばして私の右手に触れた。
低めの体温が、そっと私の手の甲を撫でる。
そして。

「あんたを、好いている」

静かに、柔らかな声音で。
彼はそう囁いて、藍色の瞳に私を映し込んだ。

本日四度目にして、最大の爆弾だった。

「え…あ、う…」

ぱくぱくと口を開閉させるばかりで、まともな言葉が出てこない。
すっかり混乱した頭は回路を遮断されたみたいに動きを止め、私は斎藤さんを穴が空くほど見つめることしか出来なかった。

「その、返事は今すぐでなくとも構わない」

斎藤さんはそう言って、私の右手を優しく包み込んだ。
慈しむように、親指で甲を撫でられる。
その感覚が優しくて、胸が甘く疼いた気がした。

「考えて、くれないか。俺とのことを」

イエス以外の答えが、まさか存在するとでも思っているのだろうか。
私は声にならない思いをなんとか吐き出そうと、何度も頷いた。
斎藤さんは、それで分かってくれたらしい。
ありがとう、と静かに微笑んだ。

今まで、斎藤さんをそんな風に見たことはなかった、とか。
私じゃ斎藤さんには釣り合わない、とか。
そんな建前を一瞬で吹き飛ばしてしまうような、そんな笑顔だった。


髪を切ってよかったと、その時私は心の底からそう思った。

そんな私が斎藤さんの、俺はあんたの長い髪が好きだった、という一言で再び髪を伸ばし始めるのは、もう少し先の話だ。




誤解と誤想の協奏曲
- その真相は胸の中 -


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