[40]希望をこの胸に抱きしめて
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翌日の朝、私は微かに感じた気配で目が覚めた。
まだ身体には気怠さが残っていたが、気配を察することが出来るくらいには回復したと言うことだろう。

寝所の襖を開けて、風間様の私室に顔を出す。
指をついて頭を下げようとしたことろで、私は思わぬ人と顔を合わせることになった。
てっきり風間様が帰って来たのだとばかり思っていた私は、そこにいたのが天霧様だったので驚いた。

「お、はようございます」

戸惑いつつも挨拶をすると、私を振り返った天霧様が申し訳なさそうな顔をした。

「おはようございます。申し訳ありません、起こしてしまいましたか」
「いえ、大丈夫です。それより、どうされたのですか?」

天霧様が、風間様もいないのにここに来るなんて珍しい。
風間様を待っているのだろうか。

「ええ、実はですね。今日はこの部屋にいろ、と」
「この部屋に?」
「はい。風間の指示なのですが」
「風間様が、ですか」

意味が良く分からずに首を傾げると、天霧様は苦笑を漏らした。

「風間はいま所用で出掛けています。その間、代わりに貴女を見張っていろ、とのことです」

その言葉に、ようやく状況を理解した私もまた苦笑する羽目になった。
監視役、ということらしい。
そこまでしなくても、流石の私だって昨日の今日で屋敷を抜け出すような馬鹿をする気はないのだが。
しかし天霧様に何を言ったところで無駄だろうと分かっているので、頷くに留めた。

「朝餉はここに運ぶよう伝えてありますので、ゆっくりしていて下さい」
「ふふ。至れり尽くせりですね」

どうやら、部屋からも出してもらえないらしい。
私が笑えば、天霧様は穏やかな顔で私に向き直った。

「風間も心配しているのです。窮屈でしょうが、彼が戻るまで我慢して下さい」
「心配?」

昨日のことがあるだけに、窮屈だなんだと文句を言うつもりなどなかった。
それよりも私には、心配という単語が気になった。

「はい。昨夜も大変だったのです。貴女がいないと分かり、それはもう珍しいほど慌てて飛び出して行きましたから」

その言葉に、頬が熱を持った気がした。

「風間様が、ですか?」
「はい。貴様も早く探しに行けと、それはそれは盛大に怒鳴られました」

天霧様が呆れたような口調で語る昨夜の真相に、私はただただ驚くばかりだった。
あの、いつも冷静な風間様が、私の不在に慌ててくれたという。
心配をしてくれたという。
不謹慎だと分かってはいても、緩む口元を抑えきれなかった。

「あの風間にあんな顔をさせられるのは、貴女だけですよ」

だから、どうか大人しくしていてあげて下さい、と。
まるで子どもに言い聞かせるような口調に、普段なら剥れるところだ。
でも今はそれより、嬉しさの方が勝っていた。

確かに風間様にとって私は、子を産ませるための道具かもしれない。
それでも、ほんの少しくらいは、私自身のことを気に入ってくれているのかもしれない。

そう、思えたから。



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