誤解と誤想の協奏曲[3]
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うちの部の部長である土方さんに、得意先から電話が掛かってきたのは丁度昼休憩の直前だった。
その時土方さんは外に出ていたため、先方にその旨を伝えると、気性の穏やかなその人は機嫌を損ねることもなく。
後で折り返すよう伝えてくれ、と仰った。

そんなに火急の用事といった様子はなかったが、先方はこの会社にとってとても重要な顧客だ。
対応は早い方がいいだろうと、私は土方さんの社用携帯に電話を掛けた。
その行為自体は決して間違っていなかったのだと思うが、タイミングが悪かった。
というより、土方さんが悪かった。

運悪く、マナーモードになっていなかったその携帯電話が、打ち合わせ中の土方さんのポケットの中で着信音を鳴らしてしまったのだ。
もちろんこれは、あまり良いことではない。

その後掛け直してきた土方さんも、自分が悪かったということは十分に分かっていたのだろう。
だからこそ、恐ろしく不機嫌だった。
私は悪くないはずなのだが、それはもうネチネチとしつこいくらいに怒られた。
一体いつの話だ、と言いたくなるほど昔のことまで挙げ連ねて怒られた。
確かに少しへこんだ。

斎藤さんは、そのことを言っているのだろうか。
確かにその理不尽な叱責に少しへこんだが、正直そんなことは日常茶飯事だ。
鬼の土方部長の説教なんて聞き慣れているし、今さらそんなに落ち込むようなことでもない。
そもそも、電話での叱責だったのにどうして斎藤さんがそのことを知っているのだろう。

「えっと、じゃああの、行きます」

理解できない点はかなり多い。
斎藤さんはどうやら私を慰めようとしてくれているみたいだが、私が土方さんに怒られたことなんて今までに何度もある。
それがどうして、今日に限って突然飲みに誘ってくれる気になったのだろう。
だが、良く分からないが、多分こんなチャンスは二度とない。
何の気まぐれかは分からないが、こんなイケメンと飲みに行くチャンスをみすみす逃すのも勿体ない。
明日友人に自慢するネタにさせてもらうくらいなら、バチは当たらないだろう。

おずおずと頷けば、斎藤さんは滅多にない笑顔を見せてくれた。



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