心の中をのぞいたら[4]
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その後私たちはベッドの上に座り、15分もかけてお互いの誤解を解いた。

どうやら私は昨夜土方さんに抱えられてここまで帰ってきたらしく、斎藤さんはそのことがお気に召さなかったらしい。
その状況で私が土方さんの名前を出したものだから頭に血が昇ったと、そう説明してくれた。

「ごめんなさい、その、ちょっと自棄酒を」

確かに、恋人が意識を飛ばした状態で他の男に連れられて帰ってきたら、誰だって嬉しくないだろう。
飲み過ぎた私に非がある。
だが、それもこれも、斎藤さんがあの女の人と食事に行ってしまったからで。
でも、仕事だと言われてしまえばそれまでなわけで。
聞き分けのない女に成り下がるのは嫌で唇を噛んだ、その時だった。

「すまなかった、ナマエ」

ぽつり、と零された音。
そして伸びてきた左手が、私の唇をそっと撫でた。
噛むな、そう言われた気がして口を開ける。
すると斎藤さんの顔が近づいてきて、噛んでいた下唇をなぞるように舐められた。

普通なら恥ずかしく感じるはずのそれが、まるで労わるような優しさを秘めている気がしてされるがままになっていると、斎藤さんはゆっくりと離れていった。
代わりに骨ばった左手が、壊れ物を扱うみたいに私の頬に触れた。

「何も言わなくて、すまなかった。彼女とは、本当に仕事上の付き合いだ。誓って何もない」

真摯な口調で紡がれたその説明に、驚いた。
私が気にしていたことを、知っていたのか。

「不安にさせた、すまなかった」

右の頬を、優しく撫でる指先。
目を閉じて頬を擦り寄せれば、そっと笑う気配がした。

「あんたは、そのままでいい。いや…そのままが、いい」

穏やかに、柔らかく。
落とされた言葉に、思わず目を見張る。
目の前には、優しく澄んだ蒼色があった。

狡い人だ。
こんな言い方をされたら、もう怒れない。
拗ねている自分が馬鹿らしくなってきてしまう。
醜い嫉妬心とか、どうしようもないもどかしさとか、そんなものが消えてなくなる。

だったら私にも、同じことが出来るだろうか。
この人に、こんな気持ちを分けてあげられるだろうか。

「私も…はじめさんが、いい、です」

呼び慣れない名前に、少し恥ずかしくなる。
だが、斎藤さんの反応は顕著だった。
目の前で、途端に耳まで真っ赤に染まった顔。
やがて、ふいと逸らされる視線。
でも唇の端は、嬉しそうに弧を描いている。

そんな斎藤さんを見て、私は笑った。

私たちはきっと、もう大丈夫だ。



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