心の中をのぞいたら[3]「…許さぬ」
その薄い唇から漏れた、常よりも低い音。
何に対する台詞か理解出来ずに聞き返そうとして開いた唇は、しかし次の瞬間斎藤さんの唇に塞がれていた。
唐突なキスに目を瞬く。
しかもいきなり舌を押し込まれ、無理矢理深いキスにもっていかれる。
いつもは啄むようなキスから始める斎藤さんらしくない、荒々しいキスに翻弄される。
ようやく唇が離れた時には、息も絶え絶えだった。
「な、いきなり…っ、なん、で…」
荒い呼吸のまま斎藤さんを見上げれば、その瞳に先ほどまでの怒りはなく、代わりに深く沈み込んだような滲んだ蒼があった。
「…やはり、土方さんがいいのか」
「はい?」
土方さんがいいとは、何の話だ。
何についての、いい、だ。
そもそも、やはりとはどういう意味だ。
「俺よりも土方さんの方がいいのか、と聞いている」
なんだ、それ。
なんでそんなことを、言われなければならないのだ。
それは、こっちの台詞だ。
「斎藤さんこそ!なんですか別れるって!そんなにあの人がいいんですか、私はもう用済みですか!」
「…は?」
ベッドの上。
私の顔の両サイドに手をついた斎藤さんが、訳の分からないという顔をする。
「待て…何の話だ」
「斎藤さんこそ何の話ですか!」
お互いの頭の周りを疑問符が飛び交って初めて私たちは、何かがおかしいということに気付いた。
「あんたが、土方さんに泣きつく、と」
「だって、斎藤さんが別れるって」
「言っていない!断じてそんなことは言っていない!」
珍しく、私を見下ろす斎藤さんが大声を上げる。
あれ、違う。
別れ話をした時は、もっと、なんというかいつも通りで。
ちょっと回りくどくて分かりづらくて、
「…夢?」
現実の斎藤さんが、大きな溜息を吐いた。
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