心の中をのぞいたら[2]
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「何か物凄い声が聞こえたのだが、どこかぶつけたのか?」

黒のシャツとチノパンという比較的ラフな格好の斎藤さんが、心配そうに近寄ってくる。
先ほどの、いたたたたたた!を聞かれていたらしい。
恥ずかしすぎる。

だが、それよりも問題は別の点にある。
先ほどの話だ。
釣り合いがどうとか、意味の違いがどうとか、訳の分からないことはもう覚えていないが、あれは要するに別れ話だった。

別れ話。
まさか、例のクライアントの女の人と付き合うのだろうか。
私よりもその人の方がいいとか、そういう話だろうか。

「さっ斎藤さん!捨てちゃやです!」

私は慌てて起き上がり、ベッド脇に立った斎藤さんに座ったまま縋り付いた。

「…は?」

斎藤さんが、珍しく目を丸くして見下ろしてくる。
驚いているらしい。
だが、そんなことに構っている余裕はない。

「私、頑張りますから!ボンキュッボンは無理かもしれないですけど、仕事はもっとちゃんとしますし!ちゃんと女らしくしますから!お酒も、今言っても説得力ないかもしれないですけど、控えるようにし」
「待て、ナマエ」

ひどい頭痛に耐えながら斎藤さんを見上げて訴えていると、不意に言葉を遮られた。
これ以上話も聞きたくないとか、そういうことだろうか。

「嫌ですっ、捨てないで下さいっ!」

斎藤さんの着ているシャツの裾を掴んで訴える。
見上げたそこにある顔は明らかに戸惑っていて、こんな状況でも相変わらず格好良く見えるから不思議だ。

「捨てられたら私土方さんに泣きつきますからねっ」

別に、特に深い意味があって発した言葉ではなかった。
なんとなく、斎藤さんは土方さんに従順だから、この名前を出せば話を聞いてくれるのではないか、と思っただけだった。

だが、その瞬間斎藤さんの目の色が変わった。

「え…わっ!」

突然斎藤さんに両肩を押され、私はベッドに逆戻り。
スプリングに受け止められ、しかし痛みのせいで脳みそが揺れた。
目を閉じて痛みをやり過ごし、そして恐る恐る目を開けると。

そこには、鬼の土方さんでさえ真っ青になりそうな、恐ろしく壮絶な怒りを纏った斎藤さんがいた。



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