君が笑っているならば[6]
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斎藤は決然とした表情でそう言って、俺を睨みつけた。
そんな目で見られたのは初めてだった。

思わず、笑っちまった。

俺が吹き出せば、斎藤は呆気に取られたような顔をする。
どうやらこいつ、本気で俺がミョウジに気があると思ったらしい。

「冗談だ。俺にとっちゃ、あいつは手のかかる妹みたいなもんだからな」

そう返せば、斎藤はあからさまに安堵した表情で肩の力を抜いた。
ちょいと意地悪が過ぎたらしい。

「ったく、そんな顔するくれえならもっとちゃんと捕まえておけってんだ。別にな、仕事をどうこうしろって言ってんじゃねえ。ただ、言葉を惜しむな」

もっとちゃんと説明してやれ、と。
そう言えば、斎藤は納得したように頷いた。
全く、どいつもこいつも手がかかりやがる。

「んじゃ、俺は帰るぜ。ミョウジに、この貸しはでけえぞって伝えておけ」

俺はそう言うと、カップに残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
斎藤が玄関まで見送りに出てくる。

「ありがとうございました」

律儀に頭を下げられ、思わず苦笑した。

「じゃあな」
「はい、お気をつけて」

斎藤の声に見送られ、俺はこいつの家を後にした。
ここまでやったんだ。
流石の斎藤もミョウジの悩みに気付いただろうし、何をすべきかも分かったはずだ。
週明けには、ミョウジが元気になってるといい。
あいつが落ち込んでやがると空気が悪いったらありゃしねえ。

「まあ、面白いもんも見れたことだしな」

先ほどの斎藤の顔を思い出す。
寡黙で冷静沈着なあいつが、あんなに感情を剥き出しにして取り乱すなんて予想外だった。
相当惚れ込んでやがる。
そういうところをミョウジにも見せてやればいいんだ。

「ったく、どいつもこいつも」

そんな文句がつい漏れた。
しかし、言うほど悪い気分でもなかった。
一仕事終えた達成感のようなものさえあった。

俺はスーツのポケットから出した煙草に火をつけて、しばらく夜の街に佇んでいた。




君が笑っているならば
- それでいい気がしてくるんだ -


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