君が笑っているならば[4]
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何故だ。
何故ナマエが土方さんと一緒にいるのだ。
しかも、見た限りナマエは一人では歩けない様子だ。
酔っ払っているのか。
今まで、二人で飲んでいたと、そういうことか。

「おい斎藤。早く開けろ、重いんだよ」

俺の思考を打ち切る土方さんの怒声に、慌てて自動ドアのオートロックを解除した。
俺は慌てて玄関に向かい、脱ぎっぱなしになっていた革靴を引っ掛けて外に出る。
共用廊下を足早に歩きエレベーターの前まで行くと、エレベーターは1階から上ってくるところだった。
階数表示のランプが一つずつ上がり、そしてついに真っ暗だった目の前の小窓の向こうから白い電気が差し込む。

やがて開いたドアの向こう、そこにはナマエを肩に担ぎ上げた土方さんがうんざりした顔で立っていた。

「土方さん、俺が」
「ああ、いいからお前はドア開けてくれ」

ぐったりとしたナマエを受け取ろうと両手を差し出すも、土方さんは彼女を抱えたまま歩き出した。
俺は慌ててその前に出ると、玄関ドアを開ける。
土方さんは中に上がり込むと、ナマエを抱えたまま革靴を脱いだ。

「寝室はどっちだ」

続いて中に入った俺も革靴を脱ぎ、次にナマエの履いているパンプスを脱がせる。
そして土方さんの脇を通り抜け、左手にある寝室のドアを開け放った。
土方さんが彼らしくない優しい手つきでナマエをベッドに下ろすのを、黙って見守る。
やがて土方さんは、呆れたような、しかし穏やかな笑顔でナマエの頭を一撫でしてから身体を起こした。
ナマエはすっかり寝入っている。

「ったく、しょうがねえ奴だな」

そう言った土方さんの声音は、どこか優しさが滲み出ていた。
俺は黙って拳を握り締める。

この人は。
まさか、この人は。

「お前が起きててくれて助かったぜ斎藤。ったく、勝手に酔い潰れちまいやがってよ」

寝室を出てリビングに案内すると、土方さんは疲労感たっぷりにそう言って背を反らした。
どこで飲んでいたのかは知らないが、いくら相手は女性とはいえ人を一人運んで来たのだ。
疲れているだろう。

「コーヒーでも飲んで行かれませんか」

この人に限って、何か疚しいことなどあるはずがない。
むしろ俺は、彼女をここまで連れ帰ってくれたことに感謝するべきだ。
醜い嫉妬心を押し殺してそう尋ねれば、土方さんは苦笑した。

「ああそうだな、頼めるか」

このままだと帰りのタクシーで寝ちまいそうだと漏らしながら、土方さんはダイニングの椅子に腰かけた。



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