君が笑っているならば[3]
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俺は、何度かけても繋がらない電話に溜息を吐き、スマートフォン片手にソファに沈み込んだ。

金曜日の夜。
いつもであれば今頃、ナマエと共にこの部屋で酒を飲んでいるはずだった。
だが、最近担当になったクライアントの女性の少々強引な誘いを受け流し切れず、渋々食事に出た。
仕事の話を持ち出されると、こちら側としては無下に扱えないことが歯痒い。

一滴の酒を飲むこともなくその場を切り抜け、二軒目の提案を断り、ようやく自宅に帰りついたのが一時間前。
ナマエに今夜共に過ごせなかったことを詫びようと電話をかけて、しかしそれがなかなか繋がらないことに苛立っている。
彼女はどこで何をしているのだ。
今日は仕事が溜まっている様子ではなかったから、とっくに退社しているはずだ。
さすがに寝るには早すぎるだろう。
メールも送ってみたが、そちらも返って来ない。

まさか、誰かと飲みにでも行っているのだろうか。
しかし、それならば俺に何か連絡を入れるはずだ。
彼女はいつも、俺ではない誰かと飲みに行く時は連絡をくれていた。
それが他の男の名前だったりすると少し苛立ちもしたが、狭量な男と思われたくはないので、快く送り出してきた。

しかし今夜はどうだろう。
ここまで連絡がつかないとはどういうことか。
まさかどこかで酔っ払って、誰か他の男と。

「…くそ、」

ナマエは良くも悪くも、人を信頼しすぎる。
ついでに自分の魅力には無頓着なものだから、相手の下心になんて気付かずに平気で笑顔を振り撒く。
職場では交際を隠している俺が、彼女に好意を寄せる男共に裏から手を回していることになんて、きっと気付いてもいないのだろう。
何度、彼女は俺のものだと宣言したかったことか。


もう一度電話をかけてみようと、スマートフォンを操作しかけた、その時だった。

突然鳴り響いたインターフォンの音。
俺は慌ててソファから立ち上がった。
こんな時間に訪ねてくるなんて、ナマエ以外考えられない。

しかし、通話のボタンを押してモニターを見た俺の目に映ったのは、ナマエの姿だけではなかった。
その彼女を肩に担ぎ上げて、立っていたのは。

「…土方、さん…」



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