君が笑っているならば[2]
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「おい、バイブの音、お前じゃねえのか」
「…え?」

先ほどから気になっていた微かな音を指摘すれば、危なっかしい手つきでミョウジが鞄を漁る。
そしてスマートフォンを取り出して、画面を見るなり顔を顰めた。
それだけで状況を察することが出来る、分かり易い顔だった。

「どうせ斎藤だろうが、出ろよ」

俺のことは気にするな、と伝えたが、ミョウジは動かない。
やがて、断続的に振動を伝えるスマートフォンを、そのまま鞄の中に仕舞い込んだ。

「おい」
「いいんですぅ。どうせぇ、今頃あの女の人とぉ、お楽しみの真っ最中なんれすよお」

ったく、強情な奴だ。
そんな訳ないだろうが。
そもそも、もし本当にお楽しみの最中なら連絡なんてしてくるか。
だが、弱気になってついでに酔っ払ったこいつには、そんな当たり前のことも分からないらしい。

斎藤も、つくづく苦労するな。
まあ半分は自業自得ってところなんだろうが。

「お姉さーんっ!もう一杯くださあい!」
「ばっ、おま、もうやめとけ!」

この野郎。
一滴も飲んでない上司の前で酔い潰れる部下がどこにいるってんだ。

「えええ、まだ飲めますよお」
「んな赤い顔して何言ってやがる。いいからもうやめとけ」
「土方さんのケチぃ、鬼ぶちょー、すけこましぃー!」
「…おいてめえ、最後のは聞き捨てなんねえぞ」

言いたい放題なこいつに蟀谷が引き攣るのが、自分でも分かる。
しかし俺の怒りなど気にも留めず、こいつはむにゃむにゃと訳の分かんねえことを二、三口にし、そして突然テーブルに突っ伏した。

「…おい」

「…おい、ミョウジ!」

テーブル越しに手を伸ばし肩を揺すってみるが、反応はない。

「くそ、マジで酔い潰れやがった」

全く、いい度胸だ。
好き勝手に飲むだけ飲んで、気が済んだら寝やがって。
俺も男だということを分かっているのだろうか。
こんな無防備な姿を晒されることに、信頼されていると喜ぶべきなのか、全く意識されていないことを嘆くべきなのか。

「ったく、お前の家なんてどこにあるか知らねえぞ」

さて、どうしたものか。
とりあえず会計を済ませた俺は、溜息を飲み込むとミョウジを肩に担ぎ上げて店を出た。



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