[31]セピア色に染まった哀しみがその夜俺は、ナマエを家に泊めた。
遠慮するナマエに寝室を明け渡し、俺はソファの上で一夜を明かした。
ほとんど眠れなかったが、そんなことはどうでもよかった。
そして翌日。
俺はナマエに仕事を休ませた。
昨日の今日だ、原田の顔を見るのはつらいだろうし、一人ゆっくり考える時間も必要だろう。
付き合っていた頃はナマエのものだった合鍵をもう一度渡し、俺は家を出た。
出社していの一番に、空いている会議室を一室押さえた。
それからオフィスに戻ってみると、丁度原田が出社してきたところだった。
昨夜、ナマエは結局たったの一度も、相手が原田だと認めなかった。
しかし俺は、原田の顔を見たその瞬間、読みが外れていなかったことを確信した。
原田は遠目にも分かるほど、憔悴し切った顔をしていた。
原田を呼び出し、用意した会議室に押し込んだ。
そして問い詰めた。
原田は何も言わなかった。
その表情で、俺は原田が死にたくなるほど後悔していることを悟った。
だが、深く反省してますと言われたところで許せるような話では到底ない。
この男が、ナマエを傷つけた。
ナマエの想いを踏みにじり、泣かせたのだ。
本気で一発殴った。
これが露見すれば間違いなく俺のクビは飛ぶが、その時はそんなことを考える余裕もなかった。
だが、ナマエが知ったらあいつは自分を責めるだろうと思った。
だから、そこでやめた。
俺は原田に、今日は帰れと言い残し、会議室を後にした。
ナマエの仇、なんてもんじゃない。
これはただ、俺のエゴだ。
いや、エゴですらないのかもしれない。
ただ、やり場のない怒りを原田にぶつけただけだ。
こんなことでは、何も解決しない。
分かっていた。
結局、俺が一番許せないのは自分自身なのだ。
俺がナマエと別れるようなことがなければ、こんなことにはならなかった。
ナマエを傷つけたのは、俺だった。
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