[24]見え隠れする狂気
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「ナマエ、この後飲みに行かないか?」

その日、定時で上がる目処をつけた俺は、今朝の一件について確認すべくナマエを誘った。
ナマエのデスクを見る限り、彼女も早めに上がれそうだと思えた。

「すみません原田さん。今日はちょっと仕事が残っていて」

しかしナマエから返ってきたのは、そんな言葉だった。
俺は、脳天を殴られたような衝撃に固まった。
ここ数年、ナマエが俺の誘いを断ったのは初めてだった。

「すみません、また今度誘って下さいね」

ナマエが、本当に申し訳なさそうな顔で俺を見る。
作り物の表情には見えない。
だが、昨日の夜から不安に駆られていた俺は、疑心暗鬼になっていた。
本当に仕事が残っているのか。
もしかして、土方さんと会うのではないだろうか。

しかし、断られた以上は引き下がるしかない。
俺は分かったと頷いて、オフィスを後にした。
土方さんも残業をしている。
そのことが、俺をより一層不安にさせた。

しかしそれから数日間、ナマエと土方さんの関係性に変化は見られなかった。
ナマエは相変わらずの淡々とした事務的な態度を貫いているし、土方さんは土方さんで、仕事の事以外は口にしない。
二人はあの、俺は本気だと言った一件がまるでなかったことみたいに振る舞っている。

しかし、むしろ何の違和感もない態度こそが俺の不安を煽った。
普通に考えて、何でもないわけがないのだ。
内容は分からないが、土方さんはあんなに堂々と何かを宣言した。
それに対し、ナマエはかなり動揺していた。
それなのに、翌日からはまた元通りとはどういうことだ。

やはりナマエは、俺の誘いを断ったあの夜に土方さんと会ったのではないだろうか。
そこで、何らかの言葉が交わされたのではないだろうか。
俺の知らないところで、二人の間に何があったのか。

考えても切りがないことなど分かっていた。
そもそも、彼氏でもない俺に、ナマエと土方さんの関わりを制限する資格などない。
しかし俺は、ナマエを手に入れたいと強く願うあまり、周りが見えなくなっていた。

そしてついに、最悪の過ちを犯した。



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