[21]心の砕ける音
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「言い訳は、しねえ。…ナマエ、俺が悪かった。だから、戻ってきてくんねえか」

靴下のまま玄関に立ち、ナマエに縋り付くように背後から抱きしめている。
とんでもなく情けない姿だと思う。
だが、もうなり振りに構っている余裕はなかった。
どう思われるかなんて、この際どうでもいい。
ただ、ナマエを逃したくなかった。
もう一度俺のそばに、いてほしかった。
今ならば分かる。
こいつが何よりも大切だと、身に沁みた。
俺は確信している。
俺にはこいつが必要だ、と。

前屈みになり、後れ毛が少し掛かったナマエの首筋に額を押し付ける。
俺の好きな、ナマエの匂いがした。
香水ではない、だが少し甘い匂い。
いま腕の中にナマエがいるという事実が、嬉しくて切なくて、胸が苦しい。
ナマエと別れてから何度も夢に見た、こいつをもう一度抱きしめる瞬間。

嫌がる素振りを見せないナマエに、ほんの少しの淡い期待を抱いた、その時だった。

「…お話は、それで終わりですか?」

腕の中から聞こえた、冷めた声音。
息を呑んだ。
思わず腕の力が緩んだその隙に、ナマエが俺を振り解く。

「でしたら、これで失礼します」

そう、事務的な口調でそう言って。
ナマエは俺を振り返らないまま、玄関を出て行った。
止める間もなかった。
確かに、話を聞くだけでいいとは言った。
だが、こんな流され方をするとは思っていなかった俺は、その場に崩れ落ちた。

「くっそ…」

フローリングに叩きつけた拳から、血が滲んだ。


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