[20]退けない理由
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「付き合ってんじゃ、ねえのか」

よくもまあ、自分で自分の首を絞めるような発言をしたもんだ。
だがそれよりも、返ってきた言葉に頭を殴られたような気がした。

「仮にそうだとして、土方部長に何か関係が?」

驚くほど冷めた声だった。
見上げてくる視線もまた、冷ややかだった。
ようやく目線が合ったと思っても、そこに俺が期待していたような輝きはない。

「関係は、ねえ…な」

明確な拒絶に、ナマエの手首を掴んでいた右手から力が抜ける。
ナマエはその隙を逃さず、一歩後ろに下がった。
そして、まるで職場でのように小さく一礼をしてリビングを出て行く。

徹底した態度に怯んだ。
もうあの柔らかな声音が俺の名を呼ぶことはないのだと理解し、打ちのめされた。

だが。
このままでは、駄目なんだ。
あの日追いかけなかったことを、心底後悔した俺が、もう一度同じことを繰り返すわけにはいかない。
どんな態度を取られようとも。
正面切って嫌いだと罵られようとも。
今、もう一度、後悔するわけにはいかない。

「ナマエっ!」

力任せにリビングのドアを開けて廊下に飛び出し、まさに玄関ドアの取っ手に手を掛けたナマエを背後から抱きしめた。
久しぶりに腕の中に収めた身体が、びくりと震える。
こいつはこんなに華奢だっただろうか。
こんなに小さかっただろうか。
感じた違和感に戸惑った。
だがその匂いだけは、懐かしいナマエのものだった。

「悪ぃ。だが、帰らねえでくれ」

随分情けない声が漏れた。

「話を、聞いてくれねえか。聞くだけで、いいから」

だが、下らないプライドはもう必要なかった。
ナマエは何も言わない。
だが、抵抗もしなかった。
だからそれを肯定と受け取った。



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