[18]終わってしまった物語
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「だからお前、あれはなあ!」
「うるせーよ新八、素直に認めろ」
「いーや、俺は悪くなかった!」
「往生際が悪いぜ?」

原田と永倉が向かい合わせに座り、相変わらず漫才みたいなやり取りを繰り広げている。
俺の正面にはナマエ。
だが店に入ってから一度も、俺と視線を合わせようとはしない。
会話もしない。
もちろん、4人同じ話題を共有している時は、ちゃんと会話に混ざってくる。
だがこうして原田と永倉が自分たちの世界に入っても、ナマエは決して俺と二人で話そうとはしない。
原田と永倉のやり取りに笑いながら、灰皿を新しくしたり空いたグラスを寄せたりと、俺の方は絶対見ない。
もうこいつにとっちゃ俺は、顔も見たくないような相手なのだろうか。
別れ際の、俺のことを嫌いになったわけではないという言葉は、こいつの優しさから出た台詞だったのかもしれない。

「なあ、ナマエちゃんもそう思うだろ?俺は悪くねえんだって!」
「お前なあ、こいつを巻き込むなよ」

こいつ。
原田がまるで自分のものみたいに、ナマエを呼ぶ。

「はい、永倉さんのせいじゃなかったと思いますよ」
「だろ?やっぱそうだよなあ!」
「ナマエ、甘やかすな。こいつはすぐ調子に乗るんだ」
「まあまあ原田さん。いいじゃないですか、ねっ?」

俺の好きな笑顔で、ナマエが原田を見つめる。

「ああもう、しょうがねえなあ」

原田が相好を崩して、ナマエの頭をくしゃりと撫でる。
その瞬間、俺の元々細い堪忍袋の尾が切れた。

「永倉、ビール」
「…は?何言ってんだ土方さん、あんた飲めねえだろ?」
「いいからビール頼めって言ってんだよ!」

何もかもが腹立たしかった。
原田に向かって笑うナマエも、そんなあいつに当たり前みたいに触る原田も、二人の前に揃って並んだビールジョッキも、何も出来ずにそれらを眺めているだけの俺も。
全てが癪に触った。

その女はな、俺のもんなんだよ。
そんな、どうしようもない独りよがりばかりが、頭の中を占めていた。

どうして今になって気付くのだろう。
すぐそばにある時は、その大切さを見逃していて。
ずっと俺の手元にあるもんだと、勝手な勘違いをして。
そんな俺にナマエが愛想を尽かしたのは当然だ。
そうして失って、ようやく分かる。
俺は、こいつがいないと駄目なんだと。
手遅れになってから知る。

なんて、救いようのない男だ。


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