[16]そこに絶望だけが残ったとしても
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「土方さんも行こうぜ!」

一人物思いに耽っていた俺は、突然声を掛けられて顔を上げた。
見れば、デスクの前には豪快な笑顔の永倉が立っていた。
原田と同期のこいつも、俺の部下だ。

「ああ?」
「聞いてなかったのかよ!今から飲みに行こうって話なんだ」

部下とは言っても、もう長い付き合い。
気心の知れた友人みたいなもんだ。

「だから、俺は酒は飲まねえんだって」
「そりゃ分かってるけどよ。たまには部下と親睦を深めてだなあ」
「何が親睦だ。俺の財布が目当てなだけじゃねえか」

それでも、ばれたかと笑うこいつは憎めない男だ。
その鈍感さに苛立たせされることもあるっちゃあるが、底抜けの明るさに救われることの方がずっと多い。

「まあ来てくれって!左之とナマエちゃんも来るからよ」

その名前に、心臓が嫌な音を立てた。
原田とナマエ。
俺の知らないところで二人がよろしくやってんのは嫌だと思う反面、目の前で仲良くしてるところを見たくないとも思う。
矛盾した感情に苛立った。

「…わぁったよ、付き合うか」
「お、そうこなくっちゃな!」

それでも結局俺は行くのだ。
ただ、ナマエの笑顔を見たいがために。
例えそれが、俺以外の誰かに向けられたものだとしても。
それを見て、胸糞が悪くなるほど苛立つと分かっていても。
それでも、少しでも多く、あの笑った顔を見たいのだ。
俺が惚れた、あの笑顔を。


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