[14]いくら時が流れてゆこうと
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デスクの上に旅雑誌のようなものを広げた原田を見て、俺は小さく舌打ちした。
別に原田が一人で勝手に旅行の算段を立てているなら、俺だって気にしない。
だが原田はそれを、あろうことかナマエに見せているのだ。
ここは会社だぞと内心で注意してみるが、そもそもそれに苛立っている俺自身が完璧に公私混同をしているのだから、説得力の欠片もない。

「でも、サーフィンなんて久しぶりです」

聞こえてきたナマエの楽しげな声に、苛立ちは増した。
あいつ、サーフィンなんてするのか。
3年も付き合っていて、そんなことも知らなかった。

「俺も久しぶりだなあ」

そうかよ、二人でサーフィン旅行かよ。
原田の前でビキニでも着るつもりか。
俺はあいつの水着姿なんて見たことがない。
海に連れて行ってやったことなどないのだから当然か。
そもそも俺は、サーフィンなんてやったこともない。

「今年の冬はスキーも行こうぜ」

そうか、あいつは意外とスポーツ好きなんだな。
そんなことを別れてから知る。
しかも、俺ではない他の男との会話で。
腹が立つことこの上ないのに、会話を盗み聞きすることはやめられないのだから始末が悪い。

楽しそうに話す二人は、もはや恋人同士のようにも見えた。
付き合っているとは聞いていないが、実際のところはどうなのか。
俺と付き合っていた時も、職場にはその関係を漏らさなかったナマエのことだ。
もしかしたら誰も知らないだけで、原田と付き合っているのかもしれない。
そう思うと、腸が煮えくり返りそうだった。

「行きたいとこ、決めとけよ」

視線の先、楽しそうに笑う原田が。
同じように笑うナマエの頭を軽く撫でた。

「くそ…っ」

小さく吐き捨てた俺の手の中で、安物のボールペンが折れた。



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