[12]束の間の勝利
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「原田さんには、話しておかなきゃと思って。私、土方さんと別れたんです」

そう言って、薄く笑ったナマエ。
あの時俺は、これ以上ないってほどの複雑な心境を抱えてナマエを見ていた。

ナマエが土方さんと付き合っていることを認めたあの日、俺は彼女への想いに区切りをつけたつもりだった。
もちろん、そんなにすぐ切り替えられるものではない。
だが、仕事上がりに頻繁に行っていた飲みの回数を減らし、猛烈なアプローチもやめた。
あくまで、仕事の先輩としてのラインを意識した。
ナマエを困らせたくはなかったし、土方さんに対する遠慮もあったのだと思う。

しかし俺の努力も虚しく、そのラインは外側から崩されることになった。
ナマエと土方さんが、明らかに上手くいっていなかったからだ。
ナマエは決して、それを口にはしなかった。
しかし、笑い方やふとした表情を見ていると察しはついた。
こいつは無理をしている、と。
幸せいっぱいの恋愛なんてしていない、と。
そう気付いた瞬間、俺の中に燻っていた火が再び燃え上がった。

しかし、やはり迂闊に手を出すことは出来ず。
次第に憔悴していくナマエを、やりきれない思いで見ていた。
俺だったら幸せにしてやれるのにと、何度も心の中で叫んだ。
だが彼女が土方さんを選び続ける以上、俺一人が何を思ったとて無意味なのだ。

だが、そのナマエが。
土方さんと別れたと、そう言った。

目の前で明らかに無理をして笑うナマエを見て感じた、土方さんに対する憤り。
ナマエが悲しめば、当然俺だって悲しい。
だが、それだけでは、なかった。

俺はあの時、最低かもしれない。
最低かもしれないが、喜ぶ自分がいることを確かに自覚していた。
これで、ナマエを俺のものに出来る、と。
そう歓喜に震えたのだ。


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