[11]終局までの秒読み
bookmark


土方さんと付き合った当初、ナマエは俺にもそのことを言わなかった。
うちは職場恋愛はタブーではないが、確かに外聞はあまり良くない。
それを考慮して、会社では内緒にしておくつもりのようだった。
実際ナマエも土方さんも、オフィスでは上手く交際を隠せていた。
しかし、ずっとナマエを見てきた俺まで騙せると思ったら大間違いだ。

土方さんとくっ付いただろ、と指摘すれば、ナマエは照れ臭そうに笑った。
そして、やっぱり原田さんには隠せませんよねと、俺の問いを肯定した。
その時に俺は、告白が土方さんからだったことや、それを受けてナマエの中でも憧れが恋に変わったことを知ったわけだ。

本当は、奪ってやりたかった。
俺の方がいいと、そう言いたかった。
だが、目の前のナマエはそれは嬉しそうに笑っているから。
こいつが笑ってるならそれでいいと、俺は潔く負けを認めた。
代わりにこれからも、彼女の兄でいようと思った。

人には言えない恋愛をしていると、当然悩んだ時、つらい時に相談する相手が限られてしまう。
何かあれば俺に言えよと、俺は彼女にそう伝えた。
ナマエは、ありがとうございますと笑った。

しかし結果から言えば、土方さんと付き合っていた3年間、ナマエは一度も俺に相談をしてきたことはなかった。
悩みがなかった、とは思えない。
最初の頃は土方さんの話題になる度に幸せそうに笑っていたナマエが、付き合って1年も経つ頃にはその名前を聞いても曖昧に微笑むだけになった。
どう見てもナマエは、幸せな恋愛をしている女ではなかった。
土方さんは仕事人間だ。
恐らくはそれで、すれ違いが起こっていたのだろう。
しかし本当のところは分からなかった。
何せ、ナマエは土方さんについて愚痴一つ、不満一つ零さなかったのだから。

正直俺は、腹を立てていた。
どうしてこいつにこんな顔をさせる。
もっともっと、幸せそうに笑う女なのに。
あんたは何をやっている。
そう、土方さんを責めたかった。
だが、当の本人が耐えているのだ。
部外者である俺に何が出来るはずもなく、ただ時間だけが過ぎた。

そして、話はあの夜に繋がる。



prev|next

[Back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -