[10]甘き香り陽炎に似て
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あの頃、俺のライバルは土方さんだった。
俺の直属の上司にあたる。

ナマエにとって土方さんが少し特別なんだと気付いたのは、何がきっかけだったのか。
今となっては覚えていない。
だが最初は、その感情は恋愛ではなく憧れみたいなものだったように思う。
付き合いたいとかではなく、褒められると嬉しい、みたいな、そんな雰囲気だった。
だから油断していた。

まさかあの仕事の鬼と呼ばれる土方さんが、部下に手を出すなんて予想もしていなかったのだ。
俺はまんまと出し抜かれた。
土方さんがナマエに告白したことで、ナマエも土方さんをそういう目で見るようになった。

土方さんは、認めるのは少し悔しい気もするが、同性の俺から見ても格好良い人だと思う。
ルックスは言うまでもなく合格ライン。
仕事が出来て立場もあるから、当然金もある。
鬼だなんだと言われてはいるが、その実部下一人ひとりをしっかり見ている人で、情に厚く気配りを欠かさない。
尊敬できる人だ。

そんな人を相手に、俺は勝ち目の薄い戦いを挑む羽目になった。
だが、その時の俺のポジションが悪かった。
趣味を共有し、普段から良く一緒に飲みに行く俺は、いつの間にかナマエにとって頼れる兄貴分的な存在になってしまっていたのだ。
兄というのは、これ以上ないほど近い存在のはずなのに、決して恋愛対象にならない。
アプローチの仕方を間違えたことに気付いたが、時すでに遅し。
ナマエは土方さんと付き合うことになっていた。

そうなってしまえば、俺に残された道はただ一つ。
おめでとうと、祝福してやることだけだった。


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