[8]君がくれた始まり
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「おいしーい!」

そう言って、目の前の女は嬉しそうに笑った。
びっくりするくらいに可愛い笑顔だった。
それだけで、今日ここに連れて来た甲斐があると思わされる。
そんな、いい女だ。

「そりゃ良かった。こっちも食べてみるか?」
「いいんですか?原田さん優しいっ」

ミョウジナマエ、俺の職場の後輩。
そして、かれこれ4年近くも前から俺が片想いをしている女だ。

出会いは至ってありきたり。
新入社員として入ってきたナマエ、その教育担当になった俺。
最初は、確かに美人さんだなラッキーくらいには思ったが、それだけだった。
ついでに色々と教え始めてみれば、真面目だわ飲み込みは早いわで、俺としては大助かり。
話してみれば頭の回転が速い女で、俺が今まで遊んできた女とは違う匂いがした。

最初は興味本位だった。
研修の最終日、頑張った褒美だと言って飲みに誘った。
その夜、俺はこいつに落ちたのだ。

とりあえず、ビールで乾杯してみればその豪快な飲みっぷりに驚いた。
そして、その瞬間俺は確信した。
こいつは、今まで俺が適当に遊んできた、見るからに甘ったるそうなカクテルをちまちま飲む女たちとは違う、と。
そしてその予想は的中した。
ナマエは、それはもう気持ちがいいほどの飲みっぷりだったのだ。
ビールを数杯、そのあとは焼酎に走った。
訳の分からない名前のジュースみたいな酎ハイになんて見向きもせずに、ロックで飲んだ。
それだけ聞けば、なんとも男前だ。
だが目の前で美味しそうに酒を飲むナマエは、俺からしてみればとびっきり可愛かった。

ナマエは俺と同じくらい酒に強かった。
また、酔い方も気持ちが良かった。
愚痴に走ったり泣いたりすることはなく、むしろどちらかと言えば笑い上戸。
酒は気持ち良く飲むに限る、が信条の俺にはピッタリだった。
普段は年齢よりも大人びてみえるくせに、酔うと少し幼くなるところがまた俺の心を擽った。


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