[5]立ち止まっている僕の側を
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「ナマエ、ちょっといいか?」

デスクに戻ったナマエに、掛けられた声。
俺は思わず顔を顰めた。
俺の視線の先、ナマエの隣に座る原田が彼女に話しかけていた。
原田もナマエと同じく俺の部下だ。

「どうしました?」

振り向いたナマエに、原田が身体を寄せて何かを見せている。
資料か何かだろう。
至近距離で、二人は何事かを話し合う。
詳しくは聞き取れなかったが、原田が担当している案件についてナマエの意見を求めたようだった。

最近、この二人は仲がいい。
いや、元々仲がいいのは知っている。
原田はナマエの二期先輩で、彼女が新人だった時の教育担当でもある。
だから以前から二人が話す姿は良く見かけた。
柄にもなく、それに嫉妬したこともあった。

これは俺の勘だが、恐らく原田は俺とナマエが付き合う前から彼女に惚れていた。
多分だが、俺も原田も同じ時期にあいつに惚れたんだと思う。
ナマエを落とすにあたり、原田の存在はかなりネックだったのだ。
しかし幸運の女神は俺に微笑んだ。
正確には、俺が原田を出し抜いたのだが。

俺たちが付き合い始めたことに、恐らく原田は気付いていただろう。
その頃から、原田のナマエに対するアプローチは明らかに減った。
勿論職場ではよく話していたが、以前のようにナマエを食事に誘うようなことはなくなった。
俺に遠慮していたのかもしれないし、ナマエを困らせたくなかったのかもしれない。
どちらにせよ、原田はナマエを諦めたのだと思っていた。

だが、今になってみて思う。
原田は決して諦めちゃいなかった。
俺とナマエが別れてから、原田は再び彼女に近付いた。
原田にとっちゃ、3年も待った甲斐があるってもんだろう。
傷心中のナマエを慰めたのか何なのか、二人は以前よりもずっと親密度を増したようだった。

それが俺にとって、面白いはずがない。


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