[4]あの優しかった場所
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後に、冷静になってみてから考えれば、ナマエが別れ話を切り出したことは意外でも何でもなかった。
むしろ、遅すぎたくらいだ。

俺とナマエとの出会いは4年前。
当時俺が纏めていた部署に、新人として入社してきたのがナマエだった。
最初は何も特別なんかじゃなく、単なる部下の一人だった。
しばらくするとその評価は、いい仕事をする奴、に変わった。
そして出会ってから半年ほど経った頃、まあ色々とあって惚れ込んだ。
そしてその半年後、俺はあいつを落とすことに成功した。

交際期間は3年。
だが正直、一緒にいてやれた時間はほとんどなかった。

ナマエと付き合い始めた頃から俺の部署は成績を破竹の勢いで伸ばすと共に、それに比例して恐ろしいほど多忙になっていった。
他の部署をいくつか統合する形で新しい部署が作られ、俺はそのトップに立った。
仕事はますます忙しくなって、プライベートが潰れていった。

それでも何とか約束を交わし、外で食事をする程度のデートはしたし、お互いの家で同じ時間を過ごすこともあった。
しかし、その約束を反故にした回数は正直数えきれない。
約束の時間に遅刻しなかったことなんて、多分なかっただろう。
その上、ナマエが来る日でも平気で仕事を家に持ち帰った。
そんなだから、休日を一日使って遠出するなんてこともなかった。

どう考えても、付き合っていて楽しい相手ではなかっただろう。
職場恋愛だから、勿論ほぼ毎日顔は合わせた。
しかし当然俺もナマエも公私混同を良しとしなかったから、職場では徹底して上司と部下だった。
もしかしたらそれも、ナマエの寂しさに拍車を掛けたのかもしれない。
仕方ないとはいえ、目の前にいるのに恋人として振る舞えないつらさがあったのではないだろうか。

そんな生活を3年も繰り返した。
ナマエはたったの一度も俺を責めなかった。
文句一つ言わなかった。
遅刻しようが、約束を反故にしようが、いつだって。
仕事ならば仕方ない、と。
そう言って笑ってくれた。
最初の頃は申し訳なく感じていた俺も、いつの間にかそのやり取りに慣れ、そして甘えていた。
ナマエならば分かってくれる、と。
俺は、理解することと平気であることは別物であるということに、気付けなかったのだ。

そりゃ、別れたくなって当然だ。


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