[2]もう戻れぬあの日の空を
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多分俺は、自惚れていたんだ。
こいつなら分かってくれる。
こいつなら大丈夫だ、と。
いつだってこいつは俺の側にいるもんなんだと、傲慢になっていた。

そしてあの日、そのツケを払う羽目になったわけだ。

あれはまだ、暦の上では春だというのにコートが手放せないほど寒い日だった。
俺はナマエと仕事の後に会う約束をしていて、待ち合わせ場所は俺の自宅の最寄り駅。
もちろんそれまで同じオフィスで働いているのだが、社内恋愛、しかも上司と部下はあまり周りに知られたくないものだから仕方ない。
禁止とまでは言われていないが、公にすると仕事がやりづらくなるのは目に見えてるってもんだ。
そんな理由で、俺たちが仕事の後に会う時は必ず別々に退社し、どこかで待ち合わせをするのがルールみたいなもんだった。

その日はナマエが先に退社して、そのすぐ後に俺も帰るはずだった。
だが、上がり間際に面倒な案件に捕まった。
長期戦になることを悟った俺は、ナマエにメールを入れて先に俺の家に行くよう伝えた。
付き合って3年。
合鍵はとっくに渡してある。
本当は家に帰る前にどこかで食事をする予定だったが、さすがにそんな余裕はなさそうだった。

案の定俺がその案件を片付け終えたのは、23時を回った頃だった。
ナマエが退社してから、実に5時間も経っていた。
俺は疲れた身体を引きずって家に帰った。
そこには笑顔のあいつが、待っているはずだった。
お疲れ様と、労ってくれるだろう。
そう信じて疑わなかった。

だが、実際は違ったわけだ。



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