[24]穏やかに流れる川のように
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匡さんが屋敷に来てからも、風間様は私を連れて散歩に出た。
確かに話し合うべきことは多いが、四六時中顔を付き合わせているのは不快だ、というのが風間様の言い分だった。
とはいえ私は、ただただ風間様の決定に従うだけ。
寒くないようにと厚手の羽織を着て、いつも通り京の町に出た。

風間様も外に出ることが気分転換になっているのか、匡さんが来てからはずっと下降気味だった機嫌が少し良くなったようだった。
その証拠に、私に合わせて少しゆっくり歩いてくれている。

「寒くはないか」

散歩の途中、風間様が珍しくそんなことを聞いてきた。
話しかけてきただけでも珍しいというのに、それが私を気遣う言葉だったから余計に驚いた。

「はい、大丈夫です」
「そうか」

たったそれだけの会話。
それだけで少し心が暖まる気がした。
珍しい気遣いに触れたからだろうか。
尤も、風間様が私の身体を気に掛けるのは、単に子を宿す器としてのことだろうが。
それでも意外な優しさは心に染みた。

屋敷に戻ると、いつもの通りに二人分のお茶を用意した。
この場には、食事の時と違い匡さんも天霧様もいない。
風間様と私だけだ。
匡さんと天霧様がいないと、当然私たちの間に会話はない。
ただただ静かな時間が流れていく。

私は熱いお茶を飲み、そしてほっと一息をついた。
会話はない。
風間様の所作が丁寧なせいか、殆ど物音もしない。
それなのに。
最初の頃は息が詰まったその静寂が、今はどうしてか心地良く感じられる気がして。
私は知らず知らずのうちに、頬を緩めていた。



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