[23]見え隠れする真意
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「お、ナマエか。早いな」

その翌朝のこと。
私が広間で朝餉の席についてぼんやりとしていると、匡さんが入ってきた。
本来であれば手をついて頭を下げるべきところなのだが、そうすると匡さんの機嫌を損ねてしまうことは昨日一日で良く分かっていた。
だから軽い一礼に留めて、それよりも明るい挨拶を心掛ける。

「おはようございます、匡さん」
「おお、おはよーさん」

相変わらず、ざっくばらんで気持ちの良い明るさだ。
今まで身の周りにはいなかった性質の人だと思う。
そのせいで少し対応に迷ったりもするが、決して嫌な気分ではなかった。

「昨夜は随分遅くまで飲んでおられましたが、お身体は大丈夫ですか?」
「ん?ああ、あんくらいどうってことねーよ」
「風間様とご一緒で、お酒にお強いのですね」
「まあなあ。そう言うナマエはどうなんだ?」

匡さんが、胡座をかいて私の隣に腰を下ろす。

「嗜む程度には、といったところです」
「そうか、飲めるのか。じゃあ今夜は一緒にどうだ?」
「いえ、そのようなことは」
「なんだなんだ、風間か?あいつ、お前に酒も飲ませねえのか?」

そんなことはない。
ここ最近は、一緒に飲むようにと勧めてくれる。
だが恐らく風間様は、私が天霧様や匡さんと共にお酒を飲むことを良しとはしないだろう。

何となくではあるが、分かってきたことがある。
恐らく風間様は、私が物事に深く関与することを快く思っていないのだ。
風間様と匡さんは、私的な意味ではあまり仲が良くないかもしれない。
だが、大事な同胞であることは事実だ。
そして匡さんは、その気さくな話し方のせいで忘れがちになるが、風間様と対等に話せるほどの人物。
私は決して立場や血統に詳しくないが、恐らくは匡さんも鬼の中では高貴な部類に入るのだろう。
そして天霧様は、言うまでもなく風間様の一番の側近。
そのような輪に、私を加えたくはないのだ。

風間様が私に求めるものは、恐らく二つ。
一つは、優秀な血を引いた子を産むこと。
そしてもう一つは、頭領の妻というお飾りとしての存在。
それ以外のことは、極力何もさせたくないのだろう。
鬼の実情に詳しくない私が下手に動いて風間様の名を汚したり、厄介な事態になることを恐れているのかもしれない。

「所詮私は、都合の良い道具みたいなものですから」

そう言って、私は笑って見せた。


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