[21]変化の兆し
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私は天霧様の分も含め、三人分のお茶を淹れて広間に足を踏み入れた。
お盆に載った三つの湯呑みを見て、風間様が顔を顰める。

「それは、全てお前が淹れたのか」
「はい、そうですが何か?」

それぞれの前に湯呑みを置けば、風間様は深い溜息を吐いた。

「こいつらにまでお前が手ずから茶を淹れる必要などない」
「……そうは仰いましても。一杯淹れるならば、二杯も三杯も同じことですし」
「今回は許そう。次はないと思え」

意味が分からない。
ここまで怒られるようなことをした覚えはない。
曖昧に頷いた私は、耳に届いた場違いな笑い声に顔を上げた。
見れば、風間様の向かい、匡さんが喉を鳴らして笑っていた。

「……何が可笑しい」

風間様の声が一段と低くなる。
また始まったと、私は盆を抱えてそそくさと部屋の隅に退いた。

「いや、随分ご執心じゃねーか。頭領さんよ」
「随分とよく回る舌だな。その口、余程いらんと見える」
「おうおう、図星か」
「付け上がるのも大概にしろ」
「そっちこそ、男の嫉妬は見苦しいぜ」
「……不知火貴様、余程死にたいと見える。よかろう」

聞くともなしに聞いていれば、風間様はあろうことか膝立ちになって刀の柄に手を掛けた。
それを見て、すかさず天霧様が立ち上がる。

「風間、おやめなさいと申し上げたはずです。不知火も、余計な口は慎んで頂きたい」

天霧様の戒飭に風間様はゆっくりと座り直し、匡さんは頭の後ろを掻いた。
一体何を怒っていたのかは分からないが、この二人は犬猿の仲らしいということだけは理解出来た。
この場にいては、いずれ間違いなくとばっちりを食うだろう。

「私はこれにて失礼致します。何かご用がございましたらお呼びつけ下さいませ」

客人の手前、普段よりも深く一礼して、私は部屋を辞した。


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