[19]真意のほどを誰に問うその後、結局膳の味については何の評価も得られぬままに昼餉を終えた。
風間様のことだから、もし不味いならばきっと容赦なくそう言っただろう。
しかし風間様は、文句一つ言わずに全て平らげてくれた。
ということは、可もなく不可もなく、といったところだったのだろう。
怒られなかっただけ良しとしよう。
私は箸を置き、退室の挨拶をするとお茶を用意しに勝手場に向かった。
その際、膳を下げるよう使用人に言いつける。
私は勝手場でお茶を淹れ、再び広間に戻った。
膳はすでに片付けられていた。
「お待たせしました」
いつもの通り、風間様にお茶を差し出す。
「ご一緒しても、宜しいですか?」
今朝までは、食後のお茶も風間様の分しか用意していなかった。
しかし先ほどの風間様の言葉を受け、初めて自分の分も一緒に用意してみた。
「構わん」
「ありがとうございます」
どうやら散歩後のお茶だけでなく、食後のお茶も一緒に飲んで良いらしい。
一人の時間を邪魔されるのは嫌いな人かと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。
相変わらず無言ではあったが、そんなことを思いながら少し穏やかな気持ちでお茶を飲んだ。
「では、失礼します」
「……待て」
お互いの湯呑みが空になったところで退室しようとすると、風間様に呼び止められた。
「お前、夕餉の支度もするつもりか」
「ああ…そうですね。まだ決めておりませんが、そうなるかと思います」
言われてみればその通りだ。
料理人の体調がどれほど悪いのか知らないが、今日は一日休んでもらうのが得策だろう。
代わりに私が作る分には何の問題もない。
そう、思ったのだが。
「……夕餉は何処かの料亭で買い付けさせろ」
風間様はそう言った。
やはり、口に合わなかったのだろうか。
私の作った食事は食べたくないからどこかで買って来いと、そういう意味か。
「念の為に言っておくが、俺はお前を妻として娶りたいのであって、食事の用意をさせる為に側に置くのではない」
「……申し訳ありません」
私は何もせず、お飾りでいろということか。
子を産むための道具でしかない、と。
風間様の言葉に、気持ちが沈んだ。
私とて女だ。
料理の腕を褒めて貰えないのはやはり悔しいものがあるし、余計なことはするなと釘を刺されたようで立場がない。
「だが、」
思わず俯いた私に、風間様の言葉が続く。
「今夜の夕餉、俺とお前の分だけは、お前が用意しろ」
「……え?」
それは、相変わらず仏頂面な風間様から発せられた、相変わらずの不機嫌そうな声だったけれども。
「だから、俺の分はお前が作れと言っている。毎回聞き返すのは貴様の趣味なのか」
確かに、あたたかい音だった。
「返事」
「っ、畏まりました!」
慌てて、そう答えれば。
風間様は至極満足そうに、唇の端を微かに歪めた。
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