[13]貴方のいない日は
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その日、風間様は天霧様を伴って朝早くから外出をしていた。
風間様がそうして出掛けることはたまにあったが、朝餉すら共に摂らないような早い時刻から出て行ったのは初めてのことだった。
私は風間様が屋敷に来られる前までのように、姫様と朝餉を食べた。

風間様がいなければ、当然散歩もない。
私は急に出来た午前の空き時間を持て余し、ぼんやりと庭を眺めて過ごした。
風間様は決して饒舌な方ではないし、もちろん騒がしくもない。
普段だって、風間様がいたところで別に何を話すわけでもない。
そもそも同じ屋敷の中にいたとて、食事の時くらいしか顔も合わせない。
しかしどうしてだろう。
なぜか屋敷がいつもより静かな気がして、居心地が悪いのだ。
風間様の気配がないせいだろうか。

昼餉の時刻になっても、そして夕餉の時刻になっても、風間様は戻って来られなかった。
風間様がこんなに長い時間屋敷を空けたのは、恐らく初めてなのではないだろうか。
これでは晩酌の用意も必要なさそうだ。

結局その日一度も風間様と言葉を交わさないまま、私は早々に床に就いた。
帰りを待った方が良いのかとも考えたが、いつ戻るかも分からないのでやめた。
晩酌の時間がなかった分、普段よりも一刻早く布団に横たわる。
しかし、久しぶりにゆっくり眠れるはずの夜なのに、なぜか目が冴えてしまいなかなか寝付けない。
私は何度も寝返りを打っては眠気が襲ってくるのを待ったが、一向に眠くなる気配はなかった。

寝転んでいることに疲れ、私は深い溜息を一つ。
暗闇の中、天井を見上げた。
何かが、何かが気になって眠れない。
その何かに、気付きたくなかった。
だけど本当は、気付いていたのかもしれない。
いつの間にかそれは、私の日常に深く浸透していたのだと。
それをさも当たり前のように、受け入れていたのだと。

「……別に、あの人のことなんて」


結局その晩私が寝入ったのは、日付が変わった後だった。



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