[12]不可解な出来事「甘味を好むか」
それは、唐突な問いだった。
穏やかな昼下がり、突然私の部屋にやって来た風間様は、挨拶も前置きもなくそう言った。
「……はあ、嫌いではありませんが」
書き物の手を止めて、風間様を見上げる。
特に嘘をつく必要も感じず頷けば、無言で差し出された包み。
恐る恐る受け取って、一体何かと中を覗けば、どうやらそれは大福のようだった。
町で買って来たのだろうか。
「食すがいい」
風間様はそう言い置いて、用は済んだとばかりに部屋を出て行こうとする。
すっかり困惑しきっていた私は、慌ててその背中に声を掛けた。
「あのっ、風間様は?」
お召し上がりにならないのですか。
そんな意味を込めて名前を呼べば、風間様は露骨に眉を寄せた。
「俺は甘味は好まん」
「……そう、ですか」
ぱたり、と閉じられた襖。
私の手の中に、まだ温かい大福の入った包みだけが残された。
しかし、その理由がさっぱり分からない。
好きではないのなら、なぜ買って来たのだろう。
そしてなぜ私にくれたのだろう。
確かに甘味は好きだが、別に大福を食べたいなどと強請った記憶はないし、そもそも強請ったところで買ってくれるような人だっただろうか。
それがどうしてか、いま私の手元にある。
頂いた理由は全く理解出来なかったが、だからと言って食べずに置いておくわけにもいかない。
くれると言うのだからありがたく頂くことにしよう、と私は茶を用意した。
私はあまり京の町に詳しくないが、どこか有名な店のものなのだろうか。
風間様がくれた大福は、上品な味がした。
その日の夕餉の席で、私は頂いた大福の礼を述べた。
しかし風間様は何も言わず、いつも通り淡々と食事を進めるだけだった。
私はその癖のある金の短髪と紅い瞳とを見つめながら、結局彼の意図を掴めないままに夕餉を終えた。
「なんだったの……」
前々から言動が理解しづらい人ではあったが、今日はそれがさらに顕著だ。
晩酌の酒を用意しながら、私は首を傾げたのだった。
そして最後は、最早定番と化したやりとりで一日が終わる。
「どうだ、我が妻となる気になったか」
「……いいえ、決してそのようなことは」
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