でもまだ愛していたから[3]挙式、そして披露宴が終わり、列席者たちが会場を出て行く。
外へと繋がる扉の手前、彼女と土方さんが皆に引出物を手渡して、二、三言葉を交わしているのが見えた。
俺は総司と共に、その列に加わった。
「はじめ、総司。今日はありがとう」
そう言って差し出された紙袋を受け取る。
「綺麗だよ、ナマエちゃん。それに、面白いものも見れたしね」
「面白いもの?」
「うん。土方さんの緊張してガチガチになった顔とかね」
「総司てめえっ!」
そこに流れる、いつもの空気。
いつも通りでいられないのは、俺だけだ。
「…はじめ?」
黙り込んだ俺を見上げる、彼女の瞳。
これから先ずっと、そこに映るのは俺ではなく。
いま彼女の隣に立ってその腰を抱き寄せている、土方さんだ。
「…幸せになれ、ナマエ」
心の底から、そう願った。
いつまでも彼女が笑っていられますようにと、そう願った。
「うん…ありがとう」
幸せそうに微笑んだ彼女の姿に、泣きそうだと思った。
まさかそんな顔を見せる訳にはいかなかった。
土方さんに頭を下げ、俺はその場から足早に立ち去る。
そんな俺の隣を、総司は黙って歩いてくれた。
二次会は、彼女にかかる負担を軽減したいからという理由で行われないと事前に聞いていた。
その代わり、後日親しい人だけを集めて自宅でパーティを開くそうだ。
土方さんらしい配慮だと感じた。
彼ならば、きっと彼女を幸せにしてくれるだろう。
大切にしてくれるだろう。
そう、分かっていた。
「…それでも。本当は、俺が…俺が、幸せにしたかった」
そう、すっかり暗くなった空に向けて呟く。
そんな俺の背を、総司が強く叩いた。
「一君、今夜はとことん付き合うよ」
隣を見れば珍しく、何の企みもなさそうな穏やかな笑顔。
俺はこいつに救われたと、そう思った。
「…ああ、頼む」
左手を上げて、首元に。
ネクタイの結び目に指を掛け、それを思い切り引き下ろした。
少し、呼吸が楽になった気がした。
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