[9]繰り返される日々
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「それで、風間とはどうなの?」

ある晴れた日の午後。
お気に入りの茶店。
手元には茶の入った湯呑みと、団子の刺さった串が二本。
そして目の前に座るのは。
好奇心に目を輝かせた、京の古き鬼。

「姫様、やめてください……」

私の口からげんなりした声が漏れたのも、致し方ないと思う。

この日、風間様と天霧様は何やら用事があるとかで、朝から屋敷を出て行った。
私と姫様はこの好機を逃すものかと、先ほどお菊さんの目を盗んで屋敷を抜け出した。
お互い監視の目から離れ、贔屓の茶店で一息。
団子を頬張りながらの他愛ない会話は、しかしその一言で私の気分を沈めた。

私の反応に、姫様は無邪気に笑う。
京の古き鬼なんて呼ばれてはいるが、その仕草はまだ年若い娘そのものの愛らしさ。

「風間と毎日どんな話をするの?」
「どんなって。そもそも会話なんてありませんよ」
「ええ、そうなの?だって、風間は貴女に気があるんでしょう?」
「まさか。風間様が気に入っておられるのは、私の血統ですよ」

京のミョウジ家。
血筋に順番を付けるならば、私の引く血は目の前に座る姫様の次に優れたもの。
風間様が目を付けたのは、その優秀な血だ。
彼にとって私は、風間家に優れた跡継ぎを齎すための道具に過ぎない。
当然そこに愛はないし、勿論穏やかな会話の場もない。
そこにあるのはただ、形式ばった夫婦の真似事だけだ。

「お互い、根比べをしているようなものです」

風間様が、一向に首を縦に振らない私を見限るのが先か。
それとも私が、延々と繰り返される酷く緩慢な日常に慣れ、諦めて彼に嫁ぐのが先か。
どちらにせよ私たちの間に情はない。

風間様との生活が始まってから、今日で二週間と少し。
その間に私たちが交わした会話など、たかが知れている。
初日に私が風間様よりも遅れて朝餉の席についた時の小言以外は、全てが毎日同じ台詞の繰り返しだ。

基本的に、挨拶をするのは私だけ。
おはようございます、おやすみなさいませ、失礼します。
どれに対しても、風間様から返答はない。
風間様が口を利くのは、一日の内たったの二回。
晩酌を始める際に、私にも飲むかと尋ねる時と。
晩酌の終わりに私を呼んで、嫁ぐ気になったかと聞く時だけだ。

そう、風間様は例の、俺の元に来る気になったか、という問いを飽きもせず毎晩繰り返す。
最初の内は驚いていた私も、今では慣れたものだ。
風間様がそう問い、私は否と返す。
そのやり取りは最早、就寝の挨拶に等しかった。


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