不器用な温もり[3]
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ぴしり、と固まった斎藤君。
その頬が、見る見るうちに朱に染まる。

「…あ、いや…そ、そうか」

先ほどまで真っ直ぐに注がれていた視線が、急に落ち着きをなくして彷徨う。
斎藤君は最早耳まで真っ赤だった。

「その、なんだ。済まなかった…」

すっかり意気消沈した様子で項垂れる彼に、なぜかこっちが申し訳ない気持ちになってくる。
恐らくこういった話に免疫がないのだろう。
デリカシーがなかったとなおも反省の弁を述べようとする彼を遮って、私は微笑んだ。

「私は大丈夫だから。ほら、早く食堂に行かないと、ごはん食べる時間なくなっちゃうよ」

そう言って彼を急かす。
もう、昼休憩が始まってから既に15分が経過していた。

「あ、ああ…」

最後にもごもごと何か呟いて、斎藤君は俯き気味にオフィスを出て行った。

確かに生理は女として恥じらいを感じる話題ではあるのだが、それにしてもここまで取り乱す男の人というのは初めて見た。
私は最後に見た斎藤君の泣きそうな困り顔を思い出し、少しだけ笑った。

再び静けさを取り戻したオフィスで、私はまたデスクに上体を預ける。
そして、痛むお腹を押さえて溜息を吐いた。


どのくらい、そうしていただろうか。
不意に聞こえて来た足音。
誰かが戻って来たらしい。
だが顔を上げる気にはなれずにそのまま俯せた体勢でいると、その気配は思いの外近くまでやって来た。
そして。

「ミョウジ」

再び呼ばれた、名前。
それは、先ほど出て行ったはずの人の声。

「あれ、どうしたの?」

驚いて身体を起こした私の前、デスクに置かれた白いビニール袋が二つ。
そこには、オフィスから一番近いコンビニのロゴ。
首を傾げて斎藤君を見上げると、彼はなぜかまた頬を染めてこう言った。

「その、ネットで、何が効くのかを調べたのだ。どこまで本当かは分からんが、ないよりは良いかと、思う」

なんだかよく分からない説明に促され、私は袋の中を覗き込んだ。
一つ目には、ホッカイロとホットの紅茶のペットボトル。
もう一つには、温野菜たっぷりスープと書かれたパックとスプーンが入っていた。
購入の際にレンジを使ったのか、触れると熱い。

「温かい物が良いと、書いてあった」

なぜか言い訳のような口調でそう説明され、そしてそれが、なぜか私の心を溶かした。
自分だって、食事をしたいだろうに。
わざわざ外に出てコンビニに行って、これを買って来てくれた優しさが嬉しかった。

「…ありがとう、斎藤君」

そう言って微笑めば、彼もまた安堵したように小さく笑った。
あまり見たことのない、笑顔だった。

「…それで、だなミョウジ。俺も、ここで食事をして良いだろうか」

斎藤君はそう言って、後ろ手に持っていたもう一つの袋を私の隣のデスクに置いた。
ちらりと見れば、中身はコンビニで売っている弁当のようだ。
私が一人にならないようにと、気を遣ってくれたのだろうか。

「もちろん」

その時私は、きっとその日一番の笑顔を浮かべていたと思う。


それは、人生で初めて、生理も悪くないなと思えた、そんな日の出来事。




不器用な温もり
- それはまるで、貴方のような -



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