不器用な温もり[2]
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「っ、はーーーー…」

ようやく訪れた昼休憩。
私は大きく息を吐き出してデスクに突っ伏した。
痛みは治まることを知らずに身体を蝕む。
当然そんな状態で仕事が捗るはずもなく、パソコンに表示された企画書のフォーマットは空欄だらけだ。

食堂に行く人、外に食べに出る人。
人口が減って、オフィスが静かになる。
私もいつもであればランチを食べる時間なのだが、今朝は時間ギリギリまでベッドで痛みと戦っていたため弁当は作っていない。
しかし食堂に行く気力はもうない。
空腹感はあるが、このままランチは抜いてしまおうか。
そんなことをぼんやりと考えていたら、不意に頭上から声が降ってきた。

「ミョウジ」

名を呼ばれ、ゆっくりと身体を起こせば。
隣の椅子に、斎藤君が座っていた。
元々の持ち主は、きっとランチを摂りに外出しているのだろう。

「顔色が悪い、大丈夫か」

そう、心配そうに覗き込まれ、私は小さく微笑んだ。
基本的に無口でクールで他人に干渉しない彼の、さりげない優しさが弱った身体に染みた。

「大丈夫、ありがとう」
「しかし、今朝から体調が悪そうだ。どこか痛いのか」

その台詞に、胸が温かくなる。
今朝から、だなんて。
気にかけてくれていたことが、嬉しい。
仕事に対して真面目一辺倒な彼が、離れた位置に座る私の様子に気付いてくれたのかと思うと、擽ったい気持ちになった。

「ちょっとお腹が痛いだけ、大丈夫だよ」

実際はそんなことはないのだが、流石に男の人に生理痛が酷いんですとは言えないので適当に誤魔化す。
しかし斎藤君は、良くも悪くも空気を読んでくれなかった。

「そんな顔で大丈夫などと言われても信用できん」
「…あの、ほんとに気にしないで」
「無理をする必要はない。腹痛なら土方部長に言って仮眠室で横になるのも手だろう」
「いや、だから、ほんとに大丈夫だから」

大丈夫だから、いやそうは見えない。
そんな押し問答を繰り返す。
しかし斎藤君は、余程気にしてくれているのか一向に私の言うことを真に受けてくれない。
いよいよ喋ることさえ辛くなってきた私は、もうどうにでもなれの精神でついうっかり口を滑らせた。

「これ、生理痛なの!」

何も、そんな大声で告白する必要はなかっただろう。
だが、その効果は確かに覿面だった。


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