不器用な温もり[1]
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目が覚めてそれに気が付いた瞬間から、私の気分は急降下して真っ逆さまだ。

月に一度の、所謂女の子の日。
この一週間の辛さは、女ならば誰もが避けては通れない道。
だが不公平なことに、この辛さには個人差があるのだ。
出血以外何も気にならない、という超ラッキーな人から、貧血で起き上がることすらままならない、という超アンラッキーな人まで、その症状と程度は様々だ。
そして私はと言うと、残念ながら生理痛が重い部類の人間だった。

今回は予定日通りに来たので、予め付けていたナプキンのおかげで下着やらシーツやらを汚さずに済んだのは不幸中の幸い。
これらが朝から血まみれだったりすると、もう泣きたくなるのは目に見えている。
私は下腹部の鈍痛に前屈みになりながら、そろそろと寝室を抜け出した。
恐らく微熱もある。
腰を中心に、全身の関節が痛い。
私はうんざりして溜息を吐いた。

今日が土日ならどれほど良かっただろう。
だが生憎なことに、今日は火曜日だ。
生理の初日から三日目までという辛さのピークを、私は全て会社で耐える羽目になるらしい。
一応私の会社では、女性社員の生理痛による欠勤が認められている。
だが、女性ばかりの職場ならまだしも、私の所属する部署は殆どが男性社員で占められている。
しかも、直属の上司はかの有名な鬼部長の土方さん。
生理痛で休みます、なんて気まずくて、入社以来一度も言ったことがない。

私はトイレの後もう一度寝室に戻り、ドレッサーの抽斗を開けた。
人よりも生理痛が酷い私は、産婦人科で薬を処方してもらっている。
それを飲めば、とりあえず何とか不調を人に悟られない程度には回復する。
私は目当てのピルケースを取り出して、だがしかし、そこで固まった。

「…うそ、」

ケースの中は、空っぽだった。
そういえば、先月の生理で薬を飲み切ってしまったような気がする。
その後、忙しさにかまけて病院に行くのを忘れていたのだ。

「どうしよう…」

薬がないと分かった瞬間、余計に痛みが増した気のする下腹部を押さえ、私は呻いた。

しかしどれだけ考えたところで、もうどうにもならない。
私は気合いと根性で身支度を整え、いつもの電車に乗るべく家を出た。
しかし余程酷い顔をしていたのか、電車で大学生風の男の子に席を譲られた。
満員電車で席を譲られるなんて、人生で初めての経験だった。
反射的に大丈夫ですと断りそうになったが、余りにもお腹が痛かったのでお言葉に甘えることにした。
世の中捨てたものではない。

そうして出社してみたはいいが、当然痛みは酷くなるばかりだ。
しかしいい年した大人が、まさか会社で何もせずにデスクに張り付いていられる訳もない。
私は気力だけで上体を起こしパソコンと向き合うと、痛みと戦いながら午前中を耐え忍んだ。


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