[6]沈黙は永遠に私は、同じ過ちを二度繰り返すのが嫌いだ。
二日目の朝。
私は夜明けと共に起床し、手早く身支度を整えて朝餉を摂る部屋に向かった。
案の定、そこにはまだ誰もおらず、当然膳の用意もなかった。
私は畳の上に腰を落ち着け、少し爽快な気分を味わっていた。
別に、昨日風間様を待たせたことをさほど申し訳なく思っているわけではない。
しかし、朝からあの不機嫌な声音で小言を言われたのではせっかくの飯も不味くなるというものだ。
それに少しだけ、彼の意表を突いてみたい、という気持ちもあった。
部屋を訪れてから半刻ほどで、不意に近づいてくる気配を感じ、私は顔を上げた。
襖の方へと向き直り、頭を下げて待つ。
す、と静かに襖が引かれ。
誰かが室内へと足を踏み入れた。
「おはようございます」
そう告げてから、ゆっくりと顔を上げる。
そこには気配から予想した通り、風間様が立っていた。
相変わらず、白を基調とした上質の着物に身を包んでいる。
その顔を見上げてみたが、残念ながら特に驚いた様子は窺えなかった。
私が先にいて当たり前、ということか。
風間様は鼻先で小さく笑うと、胡坐をかいて座った。
そんな何気ない仕草すら絵になるのだから、つくづく美丈夫だ。
そんなことを考えているうちに、膳が運ばれて来た。
配膳をしてくれた使用人は、私の姿を見て少し驚いたようだった。
無理もない。
この屋敷に来てから、私がこんな早い時刻に席についていたことは一度もなかった。
間違っても風間様の前で今日はお早いのですね、などと言われないよう、私は小さく目配せをした。
彼女はそれで何かを察してくれたのか、一言も余計なことは口にせず早々に部屋を後にした。
そうして、二日目の朝餉は一言の会話もないままに終了した。
もし会話をしたければ、風間様に小言を言わせる隙を作らなければならないのだ、ということに気が付いた。
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