[4]届かぬ距離
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散歩、とは。
気晴らしや健康のために、ぶらぶら歩くことを言う。
決して、せかせかと競歩のように突き進むことではない。
いや、競歩のようになっているのは私だけだ。

朝餉と食後の茶を終え、私は自室で三味線の手入れをしていた。
そこに不意に現れた風間様は、一言、散歩に行くと仰った。
行ってらっしゃいませと返すと、超絶に不機嫌な目で見下ろされた。
その時になって私はようやく、昨日の約束事を思い出した。

食事は共に摂る。
夜は風間様の酌をする。
そして、毎日共に散歩をする、だ。

そうして屋敷の外に出てみれば、風間様は行く先が決まっているのかさっさと歩いて行く。
私は慌ててその後を追った。
だが如何せん、足の長さが違いすぎる。
身長差がこれだけあるのだから当然だ。
私の身長は風間様の肩にも並ばない。
そのせいで、風間様はぶらぶら歩いているつもりかもしれないが、私は競歩のようにせかせかと歩く羽目に陥っているという訳だ。
そこまで体力がないわけではないが、それにしたって疲れるものは疲れる。
これは散歩ではない。
屋敷を出て四半刻、私はすでに帰りたくて仕方がなかった。

町中を歩く風間様は、言うまでもないが目立っていた。
金髪紅眼、背も高い。
また男の人にしては珍しく白地の、しかもやたらと高価そうな着物を着ている。
栄えた京という町でも、そうそうお目に掛からない風貌だ。
だが風間様は、自分に集まる視線など気にも留めていない様子で歩いて行く。
人間などに用はない、と背中に書いてあるようだった。

当初は行く当てがあるのかと思っていたが、風間様はどこに寄ることもなく、過ぎ行く町並みを見るともなしに見ながら歩いて行く。
そして気がつけば、屋敷へと戻って来ていた。
中へと入り、私に何を言うこともなく宛がわれた私室へと姿を消した風間様に、私は思わず溜息を吐いた。

これを毎日繰り返すというのか。
足の筋肉が鍛えられることだけは間違いなかった。




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