夜の帳が降りる頃[2]
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いいよね千鶴ちゃん可愛いよね、と。
独り言のようにナマエは呟く。
俺は煙草に火をつけながら、呆れて肩を竦めた。

確かに雪村は社内でもナマエと並んで人気がある。
この二人は、対照的なのだ。
幼さの残る可愛らしい顔立ちの雪村は、真面目ではあるのだがどこか抜けていて、所謂男が守りたくなる妹タイプ。
対してナマエは、洗練された美しさがあるバリバリのキャリアウーマン。
男も女も関係なく人を惹きつける、姐さんタイプ。
長い付き合いの俺からすれば、若干そこに訂正を入れたくはなるのだが、社内の印象といえばそんなところだ。
完璧に見えるこいつも実はわりと面倒臭がりで気分屋なのだが、そこは黙っておく。

「お似合い、だよねえ」

尚も続くナマエの自虐的な独り言。
見た目より酔っていることを察した。
俺は溜息を吐くと、くしゃりとその頭を撫でてやる。
昔から一度も染めたり巻いたりしたことのない、美しい黒髪が好きだった。
ちらりと斎藤の方を窺えば、飛んでくる刺すような視線。
俺はそっと口角を上げた。
仕方ない、一肌脱ぐか。

終電間際、三次会に行くかどうかで盛り上がる面々。
勘弁してと笑うナマエ。
店の外に出れば、次の店に向かうグループと駅に向かうグループとで別れた。
ナマエが駅に向かって歩き出す。
俺は帰宅組の中に斎藤の姿があることを確かめてから、悪い、と声を上げた。

「ナマエ、先に帰っててくれ。俺、今日は飲みたい気分」

そう言って、ひらりと右手を振ると反対方向に歩き出す。
去り際に、ちらりと斎藤を盗み見た。
このチャンスを生かして見せろ、と。

あの真面目で奥手な斎藤が、どう出るのか。
俺が隣にいなければ、恐らく話しかけようとするだろう。
何か進展するだろうか。
俺はほんの少しの期待を抱きながら、平助と連れ立って夜道を歩いた。

その1時間後、さて何があっただろうかとナマエに電話をかけた時。
繋がらなかったそれに、俺は笑った。
これは、もしかしたらもしかしたかもしれない。
月曜日が楽しみだった。



夜の帳が降りる頃
- 静かに始まりの音がした -



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