[2]新しい日々の幕開け
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その日から姫様の屋敷で、私と風間様の不思議で不本意な共同生活が始まった。

風間様は私が首を縦に振るまで里には帰らないと言い張り、天霧様と共に屋敷に逗留することを決めた。
風間様は先の倒幕運動の際、恩義を返すため薩摩藩に手を貸したそうで、だがもう二度と人と関わりはしないと、西の鬼が隠れて暮らす準備を整えたらしい。
そして最後に残された問題が、世継ぎを産むための伴侶を誰にするか、ということ。
そこで風間様は私の噂を聞きつけ、京までやって来たということだった。
嫁をとらねば帰るに帰れない、ということらしく。
常識人の鏡のような天霧様でさえ、風間様の言い方に苦言を呈したものの、屋敷での滞在については賛同したようだった。

姫様とお菊さんは、私の好きなようにすればいい、と決して無理強いをすることはなかった。
だが、風間様を追い出そうともしなかった。
相手は風間家の当主。
分が悪いのかもしれない。
そんな私はいくらミョウジ家の生き残りとはいえ、既に家族は亡く後ろ盾一つない居候の身。
まさか文句を言えるような立場ではない。
そうして、私と風間様の奇妙な共同生活は幕を開けた。

食事は共に摂る。
毎日共に散歩をする。
夜は風間様の酌をする。

それが、風間様が提示した決まり事だった。
私は全力で夫婦関係になることを拒否したつもりだったが、まるでお試し期間と言わんばかりの条件に私は脱力した。
実は最初はこの三つの文言の後に"床を共にする"という一文まであって、私はそれを聞いた瞬間一も二もなく部屋を飛び出した。
そのまま屋敷を出ようとしたところを、まだ一人歩きするには治安が悪いと姫様に止められたのだ。
その後もう一悶着あって、なんとかその最後の条件は却下された。
風間様は恐ろしいまでの不機嫌面で、私の拒絶を渋々受け入れたのだった。

「全く、なんて強情な女だ」
「……貴方はなんて横暴な方なんでしょう」



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