[1]あの日貴方に出逢わなければ
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我が妻となれ、ナマエ。
お前にこの俺の子を産ませてやろう。


その出会いは、衝撃的を通り越して天変地異の前触れのようだった。
顔を合わせ、互いに名乗り。
その次の言葉がそれでは、誰だって目を剥くだろう。

「………は?」

思わずそう聞き返した。
その途端に鋭い視線を向けられ、頭がおかしいのですか、と続けたかった言葉は飲み込んだ。
色気も雰囲気もそれらしくなかったが、一応は求婚に当たる言葉を吐いたかと思えば、次は人をも殺せそうな目で睨みつけるとはどういうことか。

「京のミョウジ家ならば、西の風間に十分釣り合う家系だ。問題あるまい」

気怠げな口調。
輝く黄金色の髪。
真紅の瞳。
西の鬼の頭領、風間千景。

恐ろしいほど傍若無人な態度で、彼は私に嫁げと促した。
何が、問題あるまい、だ。
大問題だ。

ミョウジ家の生き残りとして、私はもう何年も人に関わることなく密やかに暮らしていた。
だが京の町が戦場となり、私は京の古き鬼、千姫に保護された。
戦の間、彼女の屋敷で匿われるように暮らした。
そしてようやく戦が終わった今、これ以上世話になるのは申し訳ないと、ここを出る算段を立てていた矢先のこと。
突然この男は現れたのだ。

姫様もお菊さんも、風間様の付き人らしき天霧様という方も、全員が呆れたような顔をしている。
そこに驚いたような仕草が見られないということは、恐らく彼は元々こういう人なのだろう。
気位が高く、横暴で自分勝手。
なぜそんな人にわざわざ嫁がねばならないのか。
確かに血統だけで言えば、私は風間様よりも下位に当たる。
だが最早守るべき家名もない今となっては、そんなことはさしたる問題ではない。

私は風間様に視線を戻すと、はっきりとした口調を精一杯に意識してこう告げた。

「絶対に、お断りします」

目の前の男の頬が引きつったのを、私は黙って見ていた。


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