V-お酒と共に-[2]
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「じゃ、俺はこっちだから。ちゃんとナマエのこと送ってってやれよ、バニー!」


もうすぐ日付も変わろうかという時刻。

店から出た所で、そんな勝手な台詞だけを残しておじさんはさっさと僕たちに背を向けて歩き出した。
ひらひらと手を振る後ろ姿を見送って、溜息を一つ。
それからナマエさんと顔を見合わせて苦笑した。

「行きましょうか」

そう言って、おじさんとは反対の方向に歩き出す。
夜風が、少し火照った頬に心地好かった。

おじさんの勝手さには、もうすっかり慣れてしまった。
まったくマイペースな人だ。
でも今回ばかりは、その振る舞いに感謝したい。
こんな風に自然な流れでナマエさんと一緒に帰れるのは、認めたくないけどおじさんのおかげだ。

「いつもあんなんで大変でしょ。ごめんね、バニーちゃん」

僕の隣りで、ナマエさんが呆れたように笑っている。

「いえ、もう慣れましたよ」

そう言えば、その笑みが一層深くなった。

「虎徹さんの若かりし失敗談いっぱい知ってるから、困ったらネタ提供するよ」

ナマエさんはそう言って、悪戯っぽく笑う。
パンツスーツ姿なのに、その無邪気さはまるで子どものようで。
そんな表情をさせるおじさんが、ちょっと羨ましかった。
気のおけない仲なんだと、伝わってくる。

僕の知らないおじさんを彼女が知っていることは、別に気にならないけれど。
僕の知らないナマエさんを、おじさんが知っているという圧倒的な事実。
それはなんだか面白くなくて。
思わず溜息をついた。

「…ごめんね、バニーちゃん。遠回りになっちゃうなら、この辺でいいよ」

元は虎徹さんが言い出したことだし、とナマエさんに言われて。
どうやらナマエさんは、僕が彼女を送って行くことに面倒臭さを感じて溜息をついたんだと思ったらしい。

「いえ、ちゃんと送らせて下さい。遠回りではないですから」

こんなチャンスを逃す手はないのだ。
それに、遠回りではないというのも事実だった。
この道は本当に、僕の帰り道と一緒で。
だが例えそうじゃなかったとしても、僕は彼女を送って行っただろう。

「それならいいんだけど。…ありがとね」

隣りから、ふわりと笑いかけられる。
その表情に、鼓動が少しの乱れを生んだ。
顔が熱い。
きっとこれは、お酒だけのせいではないだろう。
そう思うと、なんだか気恥ずかしかった。


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