W-思い悩む-[1]はあっと大きな溜息が、無意識に零れ落ちた。
出動要請のない穏やかな午後、トレーニングセンターでいつもの通りプログラムをこなしていたはずなのに。
気がつけばマシーンの間に座って、考え事に耽っていた。
「どうしたのよ、おっきな溜息吐いちゃって」
後ろから掛けられた声に振り返れば。
「ファイヤーエンブレム…」
そこには同僚の姿。
「ハンサムが台無しよぉ?」
その言葉に、思わず苦笑い。
「いえ、なんでもないんです」
そう返しておくことしか出来なかった。
溜息の理由。
自分では、なんとなく分かっていて。
思い当たる節もあって。
だけど、あまり人には言いたくなかった。
原因が、ナマエさんだなんて。
知られたくはない。
「ならいいんだけど。そういえば、今日タイガーは?一緒じゃないの?」
そう問われて。
まさにそのおじさんが問題なのだ、と思った。
僕のパートナーである彼は今、ナマエさんに呼ばれてメンテナンスルームにいる。
しかも、朝からずっと。
それが、僕を苛立たせている原因だった。
あの2人はどうも、妙に仲が良すぎる。
それが気に入らない。
ナマエさんは朝からずっとメンテナンスルームに篭っているようで、今日僕は顔さえ見ていないのに。
おじさんはずっと一緒にいるらしい。
その事実が、なぜか無性に気に入らない。
どうしてか、最近の僕の気分はナマエさんの影響をかなり受けていて。
彼女に会えればテンションは上がり、話しかけられれば嬉しくなる。
笑顔を向けられて子どもみたいに喜んで、反対に会えないと苛々する。
なんだか物足りなくなる。
完全に、彼女の言動に左右されている。
それがなぜだか、理解できなくて。
ただ、事実そうであることは認めざるを得なかった。
ナマエさんの、笑った顔が見たい。
喜んでほしい。
悲しい顔はさせたくない。
最近僕が現場で今までになくダメージを喰らうことを避けようとする理由は、ポイントを失いたくないなんて建前で。
彼女が丹精込めて整備したスーツに、傷を付けたくないのが本音だった。
誰かの為に何かをしたい。
その人と、出来るだけ近くで関わっていたい。
そんなことを思うのは初めてで。
だけど実際は、何をしていいか分からないまま。
その気持ちだけを持て余していた。
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